ぱちぱちという音をさせながら、わたしのからだをつついてくる。
ちょっとくすぐったいけど、リズムよくキーボードを叩くものだから
わたしも楽しくなってしまう。
一日のはじまりは、画面を広げて「おはよう」。
消灯時間がくると、わたしはまぶたをゆっくり閉じて「おやすみ」。
わたしは最初の持ち主の手からはなれて、
彼女のところにやってきた。
一日の大抵は、この子と二人っきりの時間を過ごす。
たどたどしい文字の打ちかたも、操作にとまどう彼女も、
見ているとほほえましかった。
だいじょうぶだよ
わたしと毎日お顔を合わせれば、慣れてくるから…
思っていたとおり、すぐに扱いこなせるようになっていた。
でもね…
あ、またまちがってる。
ながいじゅうたんを敷くように、一気に打っちゃうものだから
文字の打ちまちがいが多くて困る。
見なおすそのときは、ちゃんと気づいてね。
彼女の書く作品は、わたしにとってひとつひとつが星で、
住んでいるひと、どうぶつ、空気がちがうの。
それはまるで、一緒に宇宙旅行をしている気分だった。
そんな楽しい日々がつづいていたのだけど…
難しい顔をして、画面を眺めるだけ。
それがわたしには、ちょっと恥ずかしかったりする…。
そして、キーボードに手をおいているのになにも押さない。
動いたかとおもうと、一行を
aaaaaaaaaaaaaaaaaa
で埋めては、消してのくりかえし。
夜は夜で眠ればいいのに、ずっとわたしとにらめっこ。
ごみ箱には次々と星がなげいれられていく…。
わたしはその流れ星に願いをこめた。
はやく彼女とまた、旅ができますように…
わたしの祈りが通じたかのように、
けろっと彼女はおなじみのリズムで打ちはじめた。
こっそり調べてみたのだけど、
彼女はスランプという名前の病気にかかっていたらしい。
病気だったら、お布団にはいって眠ればよかったのに…
おそくまで起きていたら、治るものも治らないんだよ?
そして…ひたすらキーボードを叩いたあと、
「できた!」
ひさしぶりに彼女の笑顔を見ることができた。
わたしの中が夜空なら、きっと彼女は月にちがいない。
あとでまちがいがないか、一緒に探してみようね。
それと…
よくがんばりました!
ぱち ぱち ぱち
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