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  • 執筆者の写真卯之 はな

うさぎのながいおてがみ


※短編としてお読みいただくことができますが、「きつねのうさぎ」もご覧いただくとより楽しめる作品となっています。



大家族のうさぎのおかあさんは大忙しです。


こどもたちとおとうさんを起こしてから戦争がはじまります。


あさごはん おみおくり おそうじ おせんたく

ちいさな子のお昼ごはん かいだし ばんごはんのじゅんび

おむかえ おふろ ねかしつけ


そして、おとうさんのおしごとのグチをきく係。


そのほかにもうさぎのおかあさんにはやることがたくさんあります。


そのなかでこどもがおかあさんに甘えるときがあって、

相手をするのも一苦労です。


おかあさん、つかれているの


そう言うことはできず、

なんとなく日々をやりすごすようになってしまいました。



「いってきます!」


「いってらっしゃい!」


きょうは、うさぎのおかあさんの機嫌がいつもより良くかんじます。

おおきい子たちはいつもの学校で、

ちいさい子たちは近所に住むおともだちのうさぎのママが

お世話をしてくれるというのです。

「さいきん、げんきないよ? 息抜きでもしなさいよ」

そういって、気をつかってくれたのです。


めずらしくおうちが静まりかえっています。

まるでべつのおうちにいるようです。


家事もとっくにおえたので、ひとりでじゆうにすごせる時間なのですが


「ひとりって、どう過ごせばいいんだっけ?」


いつもなにかに追われて、ながされるまま生活していたために

じぶんの時間のつかいかたがわからないのでした。


とりあえず、ふだんはゆっくり飲めないコーヒーをいれてみたり、

読書をしたり、ひなたぼっこしてみました。


それでも、なにかもっとゆういぎな時間をすごせるのではないかと

かんがえはじめました。


「とりあえず、おそとに出かけてみましょう」


うさぎのおかあさんは、いつもよりすこし丁寧におめかしをしたら

さっそく外へでました。



けっきょく、おかいものでとおる商店がいにきてしまいました。


「なんだかいつもどおりね」


「あ! うさぎの奥さん!」


やおやさんの前を歩いていると、店主のぶたさんが声をかけてきました。

ぶたさんは とおりかかるみんなにいつもおおきな声で

その日仕入れたしんせんなおやさいをおしえてくれます。


きょうはだいこんをもって、


「きょうはだいこんがお得だよ! おゆうはんにどうだい?」


「ごめんなさい。 またあとで寄らせてもらうわね」


「そうかい そうかい! またあとでねぇ!」


「えぇ! また!」



うさぎのおかあさんもおおきな声にあわせて、

お別れのあいさつをいいました。



にぎやかな商店がいをふらふらと歩いていると、

いつのまにか むらのはじへと来てしまいました。


うさぎのおかあさんは、

ひきかえして、おうちでゆっくりするのがいいのかなとおもいましたが

落ちついた森をながめていると、ひさしぶりにむらを出て

外のふんいきを味わうのもいいかもと思いなおしました。


「とおくにいかなければ、だいじょうぶ」


ぴょん ぴょん

と こどものようにとびはねてもりの中へはいっていきました。



「なつかしい! この実!」


それは、ちいさいころかぞくと森でせいかつをしていたときに

よく食べていたものでした。

ひとくち口にふくむと、

むかしと変わらない味でいっそうなつかしくおもいました。


どんどんすすむと、

こんどは兄弟でよくあそんでいた川をみつけました。


「みんな川であそんで、

 それを見てしんぱいしたおかあさんに怒られたっけ」


きおくがふわっと浮かんできて、クスッと笑いました。


そのときです。 

しげみの中から何匹かのはなし声がきこえてきます。


うさぎのおかあさんは そぉっと音を立てずちかづいて、

はっぱのあいだから向こうがわをみました。

しゅんかん、うさぎのおかあさんは息をのみました。


数匹のきつねの姿です。


「それはいい案だ」

「さいきん、狩れるどうぶつが少なくておなかすいちゃったよ」

「そこにいけば、それぞれのかぞくぶんの食料にはなりそうだな」


「ここでさくせんを立ててから、この先のむらへいこう」


このさき…。 ここらへんにむらは、

うさぎのおかあさんが住んでいるところしかありません。


このままではきつねに食べられてしまう!


音を立てず ちゅういをはらいながらはなれて、

全速力でむらへともどりました。




うさぎのおかあさんは、走りながらおおごえで伝えます。


「みんな!! たいへんなの! もうすぐきつねの群れがやってきて

 むらがおそわれちゃう! かぞくを連れてにげて!!」


ひとこえかけただけで、けいこくはむら中にひろまりました。


わたしのこどもたち…!


かぜをきるように、おともだちのおうちへ向かいます。


「こどもたち!!!」


おうちのまえでさけぶと、ちいさいこどもたち全員がとび出てきました。

おともだちのうさぎが、


「よかった、間に合ったのね! 

 いっしょににげるところだったのよ!」


「ごめんなさい、おそくなって」


「はやくにげましょう! また会えるかわからないけど…無事でね」


「ありがとう! またね!」


おともだちも、うさぎのおかあさんも、

じぶんたちのこどもを連れてとにかく走りました。


おおきい子たちと、うさぎのおとうさんを探したいところでしたが

とおくでひめいが聞こえると、


ここにいたらこの子たちもやられてしまう!


とにかく、むらをはなれるために こどもをひきつれて

ぜんりょくで逃げるのでした。




つかれても、いそがしくても、おなじ日々のくりかえしでも

わたしはしあわせだったのに

かぞくといられるだけで しあわせっていうことを忘れてた…




「おかあさん、もう だいじょうぶなの?」

「きつねは追ってこない?」


こどもたちにとっては、

つらい距離だったようでぜぇぜぇといきを切らせています。


「ここまでくれば平気よ。 みんな、だいじょうぶ?」


けがもなく、全員ついてこられたようです。


「おとうさんは?」

「おにいちゃんにおねえちゃん…」

「ぶじだよね!? おかあさん」

「ぶじに決まってるだろ!?」


こどもたちが不安を各々くちにします。


「しんぱいしなくても、かぞくだもの。 いつか会えるわ。

 それよりもあんぜんなところにうつらないと…」


うさぎのおかあさんは、つらいきもちを飲みこんで

次にどうするべきかをかんがえます。


「わたしが、つよいおかあさんでいなきゃいけない」


でかけた涙をぐっとこらえて、あるきはじめました。




一週間後。


こどもたちのにぎやかな声であさがはじまります。


「ごはんできたわよー!」


うさぎのおかあさんが

こどもたちとうさぎのおとうさんに声をかけました。

こどもたちは夢中で朝ごはんを食べています。

それをおかあさんとおとうさんは ほほえましくみていました。

おとうさんがいいます。


「まえのむらのようにおだやかなところだね、ここは」


「ここで生きなさいっていうことなのよ。 

 かぞくみんな、ここで再会できたのも」


「そうだね。 きみも、よくこどもたちを守ってくれた」


「それはおたがいさま」


あのとき、うさぎのおとうさんはおとうさんで

おおきい子たちを連れてにげていました。

おたがいがおたがいの安否をしんぱいしていましたが、


それぞれに守るべきもの いま守れるものを判断できたために

かぞくが生きのこれたのです。


「そういえば、きみ、まいにち妹さんにおてがみを書いていただろう?

 そろそろ送ったらどうだい? きっとしんぱいしているよ」


「そうね。 あのこ、心配性だから」


こんなながい間、空けてしまうのははじめてでした。


今まであったことを書くには、

一通じゃすまないくらいの量になりそうです。


親じゃないときのわたしの時間は、

てがみを書くときくらいでいいかな


こどもたちがごはんをほおばっているのを幸せそうにながめながら

おもいました。





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