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  • 執筆者の写真卯之 はな

ひつじのいちにち


※短編としてお読みいただくことができますが、「白ひつじと黒ひつじのいちにち」もご覧いただくとより楽しめる作品となっています。



ひつじは、ひとり旅をしていました。

まえの住処の森は、山火事にみまわれ

ほとんどの草木がやけてしまったのです。

肉食どうぶつにおそわれないように用心しながらすすみます。

火事ではなればなれになった、仲間や家族を探しに…


「きょうはここで寝泊りしよう」


ちょうど草にかこまれ、寝込みをおそわれることはなさそうです。


「…あのころに、もどれたら」


昔を懐かしくおもっては、もどれない現実にときには涙しました。

もう、安定したどこかの土地で過ごすのもいいかも と

迷うことはありましたが、

それでもひつじは、お互い探しているひつじがいると信じて

放浪しているのでした。


ひざを折って、ねむりにつこうとしたとき草がゆれました。

すぐにたちあがって、身がまえます。


「ぼくの肉はおいしくないよ!  

 まともに食べれてないから、肉付きがわるいはずさ!」


草むらのむこうにいる だれか にはなしかけました。

へんじがかえってきます。


「たしかに、うまくはなさそうだ」


相手がこちらに歩みよってきました。

それはじぶんとおなじ身なりをしたどうぶつ、ひつじでした。

見慣れない黒い毛がおしゃれにみえます。


「こんなところで寝ていると、おそわれちゃうぜ? 

 なにしてんだ?」


初対面にもかかわらず、同族ということで親近感がわき

いままであったいきさつをはなしました。

それを聞きおわった黒ひつじが言います。


「それなら、おれのところで夜をあかすといい。

 どうせひとりだから、気兼ねなく過ごせる」


「それは…たすかります!」


ひつじは喜びました。

警戒心のせいで、睡眠時間でも疲れがとれていませんでした。

黒ひつじは、先導して草をかきわけます。


「ぼーっとしてるとおいてかれるぞ」


ひつじはかけ足で黒ひつじについていこうとしましたが、

明らかに速度がおそいことに気がつきました。

ひどい傷痕をのこした片足をひきずりながら、歩いていました。




「ここさ」


黒ひつじが案内してくれたところは、それはすてきなおうちでした。

木で囲まれ、屋根まであるしっかりしたおうち。

そのとなりでは小さな川があり、

その水が草に栄養をあたえているようです。

きれいに植えられた花は、手入れがほどこされていました。


「すごい。 ここがきみのおうち?」


「そうさ。 おれの自慢の住処さ」


来いよ と、おうちの中へひつじを招き入れます。

なかも想像どおり、すてきな内装をしていました。

黒ひつじは奥から草を大きくひと噛みもってきて、

ひつじに与えました。


「ありがとう」


ひつじはお礼をいったあとに一口食べて言いました。


「かおりも味も最高!」


「そりゃそうさ。 

 ここいらに生える草は美味しい水で育っているからな」


満足げに黒ひつじは答えます。

ひつじはおなかがぺこぺこでしたので、

むさぼるように草をたべました。

むしゃむしゃと口をうごかしがら、


「黒ひつじさん、聞いていいかな。 その足はどうしたの?」


「これかい? ずいぶん昔に、くまにやられたんだ。 

 多少不自由はしているが、

 生きているだけ儲けもんだとおもうことにしたよ」


不幸をかんじさせない口調で黒ひつじは答えました。

なんて、つよいんだろう ひつじは尊敬しました。


「疲れただろう。 むこうの草のふとんでゆっくり休むといい。

 おれはあっちにいるから、なにかあったら声をかけてくれ」


「なにからなにまでありがとう。 はやめに寝るよ」


おやすみ、と言って床につきました。




夜中に、ひつじは目を覚ましました。

あまりに快適すぎてゆめのなかにいるようでした。


あたりを見渡します。

草のかおりがする、整頓された部屋。

ふと棚をみると、


「ひつじの…つの!?」


花でかざられた、古い角でした。

おどろいてひつじはたじろぎます。 

目をこらしてみると、いびつな文字で角に彫られていました。



ぼくたちの家を守ると約束する



「家って…このおうちのことかな。 でもこの角は…」


どうも落ち着かないので、外の空気を吸うために

こっそりとびらを開けて外へでました。


そこには、黒ひつじがいました。

こんな時間にお花の手入れをしているようです。

おもわず、はなしかけました。


「黒ひつじさん、夜中になにしているの?」


「お。 眠れないのか? おれもさ。 

 だからこうやっていつも花の手入れをしてる」


「いつも?」


「話しただろ、おそわれたはなし。 

 このぐらいの時間だったんだ、くまがきたのは。

 べつにこの年になってこわいとは思わないが、目が覚めてしまう」


「そっか。 そのお花は、部屋にかざるの?」


「もしかして、見たか?」


「ご、ごめんなさい。 この話に立ち入るのはいやだったかな」


ひつじは焦って謝罪をしました。

そんなひつじをみて、

黒ひつじはやさしい顔をして首を横にふります。


「そんなことはないよ。 

 ただ言えることは、あの角の持ち主といっしょに

 昔住んでいたってことさ」


なんとなく、ひつじは察しました。

そしてこれ以上聞くものではないと、じぶんで留めました。


ひつじは花の手入れを手伝い、しばらくしてからふたりは

それぞれの寝床にもどりました。


あのお花も、添えるために育てているんだろうな


うとうととしながら、そう思ったのでした。




「おはよう、黒ひつじさん」


「もう行くのかい」


「うん」


外にでると黒ひつじは早速庭の手入れをしていました。

その手を止めて、向き直ります。


「ここにいても、いいんだぞ」


黒ひつじは言いました。


「ううん。 ぼくは、見つけなきゃいけないものがあるんだ」


「そうか…」


少し寂しげに黒ひつじはつぶやきました。


「おれも、守りたいものがここにある」


「おたがい、やるべきことをしなきゃね」


ふたりは笑いあいました。

それぞれ信じて全うし、生きていく

称えるように目配せをしました。

黒ひつじは、足元に用意しておいた花飾りを

ひつじの頭にのせました。


「な、なにこれ」


「せんべつさ。 幸運を」


「ありがとう」


「女の子みたいだな!」


あははと豪快に笑いました。


ひつじは恥ずかしくなりましたが、

はずすことなくおうちを離れます。

思い起こしても、この一日はとても充実した日でした。


ひつじも、おなじく願います。


幸運を




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