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春まで待って

  • 執筆者の写真: 卯之 はな
    卯之 はな
  • 2019年12月3日
  • 読了時間: 2分

ここは雪国。


女の子は学校に行くまえに、飼っている犬のお散歩をします。

どんなに雪が積もっても、吹雪かないかぎり毎日出かけました。


今日も、女の子はセーラー服を着て身支度をすませ、犬を呼びます。


「おいで! お散歩だよ!」


すると、犬は女の子に飛びつきからだ全体でよろこびました。




毎朝、コースは決まっていました。

なので学校へ遅刻することはありません。


「きょうは小降りでよかったね。 毎日こんな天気だといいのに」


朝日を浴びながら、のんびりとひとりと一匹は歩きます。

犬もご機嫌のようで、雪の上をとびはねていました。


そこで、服にはいっていた携帯電話が鳴りました。

友だちからのメールで、その場で立ち止まり返信をします。


「これでよしと」


送信を完了したことを確認して、犬とのお散歩を続けました。





「…あれ?」


お散歩から帰ってきて、

女の子は携帯電話を取り出し、あるものがないことに気づきます。


家族で行った旅行の大事なお土産が、どこにもありません。

それは、小さい頃にお父さんが買ってくれた

うさぎのキャラクターのキーホルダーでした。


「そんな…」


女の子は急いでお散歩のコースをまわりました。

下を注意深く見て、落ちていないか探します。


ですが結局、見つかることはありませんでした。


次の日も、また次の日も、うつむきながら歩きますが、

かえってきて肩を落とす毎日でした。




お父さんとの思い出がひとつ消えてしまったようで、

女の子は悲しみました。




冬がおわり、春がやってきました。


女の子はもう、キーホルダーのことはあきらめていましたが、

それでも、お父さんとの思い出は大切に胸にしまっています。


あたたかくなったおかげで、お散歩もしやすくなりました。

真っ白だった町並みが、

雪解けを迎えて色を取り戻します。


そこに、


「あら?」


薄っすらと雪が残る道に、きらきらと光るものがありました。


「お父さんからもらったキーホルダー…」


女の子はすぐにそれを拾い上げます。


思い出をそっと抱きかかえるように、

手のひらでやさしく包みこみました。


よく見ると、女の子が通る道には、

だれかの落し物がいくつか顔を出していました。


それは、春に咲く花の、芽吹きのように。


あなたの探し物も、

季節が巡れば見つかるかもしれません。






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