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  • 執筆者の写真卯之 はな

春まで待って


ここは雪国。


女の子は学校に行くまえに、飼っている犬のお散歩をします。

どんなに雪が積もっても、吹雪かないかぎり毎日出かけました。


今日も、女の子はセーラー服を着て身支度をすませ、犬を呼びます。


「おいで! お散歩だよ!」


すると、犬は女の子に飛びつきからだ全体でよろこびました。




毎朝、コースは決まっていました。

なので学校へ遅刻することはありません。


「きょうは小降りでよかったね。 毎日こんな天気だといいのに」


朝日を浴びながら、のんびりとひとりと一匹は歩きます。

犬もご機嫌のようで、雪の上をとびはねていました。


そこで、服にはいっていた携帯電話が鳴りました。

友だちからのメールで、その場で立ち止まり返信をします。


「これでよしと」


送信を完了したことを確認して、犬とのお散歩を続けました。





「…あれ?」


お散歩から帰ってきて、

女の子は携帯電話を取り出し、あるものがないことに気づきます。


家族で行った旅行の大事なお土産が、どこにもありません。

それは、小さい頃にお父さんが買ってくれた

うさぎのキャラクターのキーホルダーでした。


「そんな…」


女の子は急いでお散歩のコースをまわりました。

下を注意深く見て、落ちていないか探します。


ですが結局、見つかることはありませんでした。


次の日も、また次の日も、うつむきながら歩きますが、

かえってきて肩を落とす毎日でした。




お父さんとの思い出がひとつ消えてしまったようで、

女の子は悲しみました。




冬がおわり、春がやってきました。


女の子はもう、キーホルダーのことはあきらめていましたが、

それでも、お父さんとの思い出は大切に胸にしまっています。


あたたかくなったおかげで、お散歩もしやすくなりました。

真っ白だった町並みが、

雪解けを迎えて色を取り戻します。


そこに、


「あら?」


薄っすらと雪が残る道に、きらきらと光るものがありました。


「お父さんからもらったキーホルダー…」


女の子はすぐにそれを拾い上げます。


思い出をそっと抱きかかえるように、

手のひらでやさしく包みこみました。


よく見ると、女の子が通る道には、

だれかの落し物がいくつか顔を出していました。


それは、春に咲く花の、芽吹きのように。


あなたの探し物も、

季節が巡れば見つかるかもしれません。






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