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執筆者の写真卯之 はな

星空のたずねびと


わたしは、夜空のくもの上でおかあさんを探している。


星は何百個あるかわからないけれど、いずれ会えると信じている。


きょうも星が見えるこの時間に、のんびりと歩いていた。

一個一個たずねては、おかあさんじゃないことにがっかりした。


でも、みんな、いろんなものがたりを抱えている。


わたしはひとりひとり、親身になって聞いてまわっているうち

次はだれと出会えるんだろうとわくわくするようになった。


たのしんで前に進まなきゃいけない、そう思えた。




「おじょうさん。 そんなに悲しい顔をしてどうしたの?」


寄った星は、いまにも消えそうな光を放っている星の女の子だった。


「おねえさん。 聞いてくれる?

 わたし、弟に別れるまえにうそをついたの。

 ずっと一緒にいれるから大丈夫って。

 でもわたしはこんな体になっちゃって、あやまれない。

 もう、後悔してもおそいのに…」


しゃべっているうちに、わんわん泣き出す女の子。

わたしは、肩に手をそえて言い聞かした。


「お空から見守ってるじゃない。 

 弟さんは、それに気づいていると思うわ。

 だから、泣かないで」


「ありがとう」


そのあともわんわんと泣いていたけど、ひとしきり涙をこぼしたら

すっきりとした表情で、


「ばいばい!」


そう言ってくれた。




次の星に近づくたび、遠吠えのような声がおおきくなってきた。

その正体は、犬だった。


「犬さん。 どうして鳴いているの?」


ずっと吠えていたのか、かすれた声で答えた。


「おねえさん。 どうか、聞いておくれ。

 ぼくは飼い主とお散歩に出るのが、

 一日の中でなにより好きな時間だった。

 あんまりはしゃぎすぎたものだから、

 勢いよく道路に飛び出しちゃったんだ。

 あの子は、自分を責めてずっと苦しんでいる…ぼくが悪いのに」


うぉーん と、下の地上まで届きそうなほどの大声で鳴いた。

わたしは、犬の頭をなでながらこう言った。


「飼い主さんだって、あなたの辛い姿は見たくないと思うの。

 だからいまは静かに、あの子をお空から見守ってあげて。

 いつかきっと、ここで会えるから」



わたしも、おかあさんに会ってみせるんだ…!



犬は、とたんにおとなしくなって撫でているうちに眠ってしまった。

わたしは起こさないようにして、その場をあとにした。




次の星は、やたらとにぎやかだった。

きらきらとふたつの星がかがやいていたのだ。


はなしを聞いてみれば、寄り添っているふたりは夫婦らしい。


おばあさんが言う。

「お互いはなればなれの時間が長かったけど、

 今はそれを取り戻せてうれしいわ」


おじいさんが言う。

「このきれいな光は、きみだってすぐわかったよ」


にこにことおしゃべりするふたりをみて、わたしは和んだ。

生まれたときは他人なのに、

ここまで思いやれる存在になれるなんて とてもすてき!


さいごにおじいさんは、


「こんな広い空で、たくさん星があるけれど、

 おじょうちゃんの大切なひとは見つかるよ。

 歩くことをやめないで。 願うだけで、きっと叶うから」


わたしに励ましの言葉をかけてくれた。




見かけがこわくて近寄りがたいひとも、話し相手がほしいのか

自分からよくはなしてくれた。


すると、みんなさいごにはわたしに笑顔を向けてくれるのだ。


それが心地よくて、旅をするのも苦じゃなかった。




あるとき、わたしは同い年ぐらいの女の子に出会った。

とっても疲れているようだった。


「どうしたの?」


うつむいていた顔がわたしのほうを見る。


「家族を探していたんだけれど、

 いつまでたっても見つからないの。

 家族に会いたい…」


さみしそうな表情が、わたしの胸をきゅっと締めつけた。

自分のことのようで、いたたまれなくなったわたしは、


「わたしもおかあさんを探して星を渡っているのよ。

 よかったらいっしょに行かない?」


そう誘って、わたしは仲間ができた。




女の子はずっと考え事をしているようで、

たまに悲しい顔をするときがあるけれど、

いろんなひとのお話を聞いているうちに元気がでてきたようだった。


前とは違い、生き生きとした表情になっていく。


そして、女の子は…


「ありがとう! あなたがわたしに勇気をくれたおかげよ!」


家族との再会を果たした。

みんなで抱き合っているようすを見て、

わたしは自分のことのようによろこんで、彼女にさよならをした。




一方わたしは…


おかあさんを見つけられずにいた。


どの星をめぐっても、会えない。

何日歩いても、見つけられない。


わたしの進む足が、日に日に鈍くなってしまっていった。

光がだんだん失われていくことに気づく。


「…このまま、消えちゃうんだわ」


視界がぼやけてきたときだった。


わたしを呼ぶ声が聞こえる。


意識を取り戻すと、それははっきりと聞こえた。


向こうから、なつかしくてやさしい光がやってくる。



「見つけてくれたんだね、おかあさん」

 



 

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