top of page
  • 執筆者の写真卯之 はな

五匹のおんがくだん


ひらひらのスカートに、耳にはかわいいりぼん。

足元にはきゅっと茎を結ばれたお花。


森の歌姫は、うさぎでした。


お昼を過ぎたころに、森の音楽会がはじまります。


「みんな、用意はできてる?」


うさぎの三匹のどうぶつたちは、各々役割を持っています。


りすはどんぐりをくりぬいて作った笛を。

くまはからになったはちの巣の太鼓を。

うまはひづめを木の板にタップダンスを。


これで演奏は完璧。


みんなが、


ぴー!

どん!

とたん!


と合図をします。

それを確認して、うさぎは歌をうたうのです。



「どうぶつたちに届けばいいな この歌が

 さみしいときも かなしいときも

 これを思い出せば いつでもみんなに会えるから」



詩は、どのどうぶつにも心に響きました。

きょうはなにを歌ってくれるのかな、と、

この演奏会を毎日たのしみにここに通っています。


そしておわったあとに、かならずうさぎはすることがあります。


すみで見ていた小さなねずみを呼びました。

照れながらも、うさぎの隣にならびます。

うさぎは声たからかに紹介しました。


「この子が、わたしの歌う歌詞と作曲をしてくれています!

 このなかの中心はわたしではなく、彼です。

 おおきな拍手をおねがいします!」


すると決まって、聞いているどうぶつたちは、

手を叩いたり、木を叩いたり、足踏みしたり…

それぞれのやりかたで称えました。


「もう、や、やめてよ…」


その拍手のなか、ねずみは消えそうな声で言って、

すぐに見えないところに隠れてしまいました。




「ねずみくん、どうしてはずかしがるの?」


二匹は、切り株にすわっておはなしをします。


「だって、ぼくには、みんなみたいに楽器も弾けないし

 歌だってうまくうたえない…」


「あなたがいないと曲なんか完成しないのに、なにいってるのよ!

 じぶんのすばらしい才能に気づいて」


「だって…」


ぼくはちいさいし、こわがりだし、みんなに迷惑かけるし、

ひとに嫌われているし…と、関係ないことまで

引き合いにだしていました。


うさぎはこの心の小ささに毎回、呆れてしまいます。


そんなやりとりをみていたどうぶつがいました。

そのどうぶつが、上空から声をかけます。


「歌姫、なにかお困りなのかい?」


上から飛んでやってきたのは、水色のとりでした。

ここら辺では見かけない色のとりに、

最初、ねずみとうさぎは驚きました。


「オレは、各地をとびまわるとりさ。

 すてきな演奏が聞こえてきたから、つい寄ってしまったよ」


「あ、ありがとう」


動揺していたうさぎでしたが、お礼をいいました。

水色のとりは、ねずみのほうを向きます。


「いい曲だったぜ」


「ぼ、ぼくは…」


そういって、うさぎに言ったことと同じことを、

ぶつぶつとつぶやきます。

ねずみが言い終わるまで、二匹はだまって聞いていました。

だんだんと声がちいさくなり、ねずみが黙ったところで

水色のとりが、ようやく口を開くことができました。


「もったいないなぁ」


「え?」


「歌詞に、"どうぶつたちに届けばいいな この歌が"ってあったから

 てっきり森から森を旅していたのかとおもったよ」


「そんな! ぼくには、こわくて、できない…」


「いろんな場所にいけば、表現の幅がひろがるのに」


水色のとりは続けます。


「どこまでも続く海をみたことあるかい?

 さらさらしている雪ってみたことある?

 人間の町も、おかしなものばかりで楽しいぜ」


ねずみは、想像してみましたがかなしいことに

どれも浮かんできません。

水色のとりは、つばさを広げてふたたび飛びました。


「また会ったときには、

 たくさんの言葉を聞けることたのしみにしてるよ」


そして、ふらーっと当てもない旅に行ってしまいました。




ねずみは夜にひとり、歌詞を書くために机に向かいますが

きょうは思ったように筆がすすみません。

ずっと水色のとりに言われたことが、

もやもやとこころに残っていたのです。


じつは、じぶんのからだが小さいんじゃなくて、

今まで生きていた世界が狭くて、小さかったのかもしれない。


とりに言われて気づきました。

あの自由気ままに飛び立ってどこかに行ってしまう姿が、

今ではうらやましく思えるのでした。




次の日に、演奏前にねずみはめずらしく、

りす、くま、うま、そしてうさぎの前にたちました。


いつもはこのからだに似合った小さい声でしか

はなさないねずみでしたが、からだいっぱい 張った声で言います。


「ぼく! ひとり旅してくるよ!」


その勢いのまま、すべてを話します。


「いろんなものを見て、感じて、

 どうぶつたちが知らない世界をぼくがおしえてあげるんだ。

 こわがりで、さみしがりなぼくだけど…

 ぼく自身が旅をしたいんだ!」


そう言い切ったところで、はぁはぁと呼吸をします。


うさぎは、そんな姿をみておどろくことも呆気にとられることも

ありませんでした。

ねずみは息をととのえてから、うさぎを見ます。

うさぎはにっこり微笑んでいました。


「いつか、ここにいるだけじゃ満足できないときがくると信じてた。

 ねずみくんは、本当は探究心旺盛で、からだは小さいけど、

 そのからだには入りきらないほどの

 景色をみてほしいと思っていたの。


 でも、ひとりで行かせないからね」


「え?」


りすは言います。

「わたしはねずみくんのファンでもあるの。

 追いかけるのは普通でしょ」


くまは言います。

「おれにはここは狭すぎるんだ。

 もっとおもしろいもの、見つけにいこうぜ」


うまは言います。

「たくさんのかわいい子と出会えるのなら、

 ぼくはどこまでもいくよ」


うさぎは、ねずみを手で持ちあげてささやきました。


どうぶつたちに届けばいいな この歌が

 さみしいときも かなしいときも

 これを思い出せば いつでもみんなに会えるから


「届けよう、わたしたちの歌を」




森のみんなに惜しまれながらも、大きな拍手で見送ってくれました。


「あたらしいせかいをみせてくれることを、きたいしているよ!」


そういって、演奏者たちを送り出します。


次の森へ、のんびり五匹の旅がはじまったのです。


0件のコメント

最新記事

すべて表示
記事: Blog2_Post
bottom of page