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  • 執筆者の写真卯之 はな

主役はバナナの兄弟

更新日:2019年11月18日


ぼくは、南国からやってきたバナナ!

南の島はあつくてあつくてたまらなかったけど、

とても良いながめを味わえた。


でもね、いまはぎゅーぎゅーにぼくらは箱に詰められて

どこかに向かっている。


きっと、ひとに食べられるときがきたんだ!


まわりのバナナたちがうれしそうにしたり、悲しんだりしていた。

ぼくら10本つながっている兄弟たちは


「どこに連れていかれるんだろう」

「また、きれいな海見られるかな?」

「わたし、こわいよ…」


泣く子、不安がる子ばかりでみんな余裕がなかった。




そんなときに、箱があけられてまぶしいほどの光がはいってきた。

そこには、女のひとがいて…

ぼくたちはこのひとに食べられるのかとおもった。


そしたら…


「これはこっち。 これはあっち」


それぞれの兄弟たちがはなればなれになって、

箱にいれられていく。


このままじゃ、いっしょにいられなくなっちゃう。


「やだな。 痛そう」


ぼくはつぶやいた。


兄弟も、これから起こることを察したようで、


「おしゃれなお料理につかわれたいわ」

「おいしく食べられればいいね」

「それはお互いに」


それぞれお別れを言った。


ぼくらの番がきて、女のひとが右手に5本、左手に5本、切り取った。


箱に移されるまえに、ぼくは叫んだ。


「ぼくら、ずっと兄弟だから!」


よく見えなかったけど、にこっと向こうの5本が笑った気がした。





ずっと10本だったから、最初はちょっとさみしかった。


でも食べられる日がいつかくるんだ。 悲しんじゃいけない。


5本になったぼくたちを、ひとはビニールっぽい袋にいれた。


南の国のおいしい空気で育ったもんだから、

ちょっと息苦しかったのをおぼえている。





それから、お店に並んだ。


たくさんのバナナがいて、種類も、形も、みんなちがっていた。

これは自画自賛になるかもしれないけれど…

ぼくたち兄弟がいちばんおいしそうにみえたんだ。


でも、なかなか手にとられなくて、

きょうもお店が閉められてしまう。


「ぼくたち、どうなっちゃうのかな」

「きっとこのまま売れ残って、すてられちゃうんだ!」


はげましたいけれど、そういう未来をぼくも考えてはこわかった。


おなじく、ここに並んだバナナたちも震えているようだった。

このままじゃ、みんなが元気をなくして

おいしそうに見えなくなっちゃう!



ここは、なにかしないと…



考えをめぐらせていたら、みんなに声をかけるフルーツがいた。


「あまり、悲観するでない。 

 わしなんか、ビニール袋をやぶってしまうし、

 たべるときにかたい皮をむく面倒な作業をしないといかん。

 

 きみたちはわしより、かわいい姿をしておるから

 すぐに出ていけるよ」


ここにいるのが長そうな、

お年寄りのパイナップルは、言いきかせるように語った。


ぼくは、素直に返事をしたんだ。


「パイナップルさんは、とてもかっこいい姿をしているよ!

 とげとげのからだと真っ直ぐにのびた葉っぱ。

 このお店にいるってことは、おいしいからなんだ」


「ふぉふぉふぉ。 ありがとうよ」


他のバナナたちは、なぜか恥ずかしげにしていた。


「そうよね。 おいしいからお店に来られたのよね」

「店員さんより、店員らしいや!」


みんなは笑った。

ほかのフルーツたちも、なごやかになったようだった。




「んー。 これがいいわね」


女のひとが、ぼくたちを受け取ってくれた!


「おかあさん、バナナにするの? わたし、だいすき」

「黄色がすごくきれい!」


どうやら、この女のひとは5人の子どもがいるらしい。



「ぼく、このかっこいいくだものがいい!」



ちいさいからだで持ち上げたのが、パイナップルだった。

おかあさんは悩んだあとに、


「それは、かえったらおやつに食べましょうか」


子どもたちはうれしそうだった。

おなじく、パイナップルのおじいさんもにこにこしていた。



家に帰ると、さっそくおかあさんは兄弟を冷蔵庫にいれた。


「ちょっと寒いわね。 かぜをひいちゃうわ」

「ばかだなぁ。 フルーツはかぜなんかひかないぜ」


パイナップルが入ってこないってことは、

みんなのおやつになっているんだろう。


きっと、いろんな子どもたちに「おいしい」と言われて

うれしくなったにちがいない。


ぼくたちは長旅につかれていたので、眠った。




冷蔵庫を開けられては、

おかあさんはぼくたちをとることはなかった。


なんでだろう?


子どもたちが冷蔵庫を開けてもおかあさんは、

 まだだめよ と言って子どもに言い聞かせる。


なんでぼくたちなんか買ったんだろう

ほかのバナナにすればいいのに…


ぼくらバナナは不安でいっぱいだった。



ある日、兄弟のひとりが叫んだ。


「きみ、黒くなってる! きみも、きみも!」


起きたとき、ぼくらはからだを見合った。

たしかに、ちょっと黒くなってそばかすのようになっている。


「やだ! しみができちゃってる…」


容姿を気にしていた女の子のバナナがいった。


「このまま、捨てられちゃうんだ」


怖がりの男の子のバナナがふるえていった。


きっと、だいじょうぶ


根拠がないから、焦っている兄弟たちをなぐさめることは

ぼくにはできなかったんだ…。




それからますます黒くなって、ぼくたちは諦めかけていたとき、

おかあさんがぼくらを冷蔵庫から出した。



「さぁて! みんな分けてたべなさい!」



1本 1本ちぎられて、5人の子どもたちに渡した。

ふたりの姉妹が、ふしぎそうにおかあさんに聞いた。


「おかあさん、なんで早くたべなかったの?」

「とてもきれいな黄色をしていたのに、黒い部分ができちゃったよ」




「黒くなったら、ますますおいしいバナナになったのよって

 おしえてくれるの。

 冷蔵庫に寝かせたほうがいいフルーツもあるのよ」




ぼくたちは、思った。 ほんとうかなって。

おかあさんが忘れていただけじゃないかって。


そして、一人の男の子が皮をむいてバナナをぱくり!


「おかあさん、このバナナ、いつもより おいしい!」


にこにこしながら食べている子はしあわせそうだった。

食べられているバナナもしあわせそうだったんだ。


いちばんいい時期に出してくれたおかあさんに感謝をした。

”いつもより”という言葉がなによりうれしかった。



ぼくたちをもっと美味しくしてくれて、ありがとう!


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