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  • 執筆者の写真卯之 はな

主役は 坊やのえんぴつ


ぼくは、えんぴつ。


漢字だと、鉛筆っていうむずかしい字になるらしい。


ぼくの持ち主は、まだひらがなの練習中だから漢字は書けない。

持つ手もまだぎこちない。

だからたまに、ぼくの先端を折って書けなくする。


お手伝いしてあげたいけれど、

それは坊やのためにならないからね。


ずっと見守っているんだ。




でも、ぼくは書き方の練習としてだけに

使われているわけじゃない。


お勉強がおわったら、ぼくと旅をするんだ。


人魚のすむ海で泳ぐし、ドラゴンの背中に乗って雲の上までいく。

山のうえに腰かけてる巨人に会いにだっていける。


落書きが、ぼくたちの息抜きだったんだ。




ある時、おばあちゃんからのプレゼントで色鉛筆が届いた。

そのなかには、黒いライバルのえんぴつがいた。


ぼくはこわかった。


もう役に立てないんじゃないかって。

おかあさんはお絵かきをする坊やに聞いた。


「どうして色鉛筆の黒をつかわないの?」


そしたら、


「同じ黒でも、えんぴつにしか出せない色があるんだよ。

 ぼく、この色がだいすきなんだ!」


坊やはそういって、強くにぎりしめてくれた。




学校にいくときも、もちろん一緒さ。


体育の時間はいっしょにいられなくて退屈だけれど、

さんすうや国語はぼくの出番。


坊やはぼくとお勉強したところを、間違えずに答えられた。


何度も書いておぼえたもんね。


ぼくは知ってるよ。




このまま坊やが大きくなって、

鉛筆みたいなむずかしい漢字もいっしょに

学んでいくと思ってたんだ。


でも、坊やが大きくなるかわりに、

ぼくのからだは小さくなっていった。


短くなって、短くなって、

ついには坊やのえんぴつの持ち方までおかしくなってきちゃった。


せっかくきれいな指だったのに…。




ぼくは、削ってもらって するどくかっこいい先端になった。


ちょっと危ないけど、紙にたくさんの字を書いてきたから

扱いは慣れているよね。


ぼくと坊やは紙とにらめっこしながら、

慎重に文字を原稿用紙に書きはじめた。


その文を読んでいくうちに、

えんぴつでもうれし泣きができるんじゃないかって思った…




そして坊やは、

いつものくせで、えんぴつのしんを折ってしまった。


ぽき


もう書けなくなっても平気。

だって、坊やはぼくを主人公にしてくれたから。





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