わたしは、ここのおうちの玄関マット。
花柄で、うさぎさんが描かれているの。
とってもかわいいでしょ!
でもね、すぐに汚れちゃう。
大家族のおうちだから、たくさんのひとに踏まれちゃうの。
とくにちいさい子たち。
「ただいまー!」
「おなかすいたー!」
たくさん砂をためこんだくつを脱ぎすてて、わたしにあがる。
「くつ下は洗濯機にいれて、手を洗ってね!」
台所からおかあさんの声がきこえた。
ふだんはいたずらっ子の子どもたちだけど、
このいいつけだけは守ってる。 ほんとうは、とってもいい子。
夜はちょっとくたびれた足どりでわたしにあがるひとがいる。
「ただいま」
「おとうさんだ!」
「おとうさん、あのね!」
わたしはそっと、きょうもおつかれさま とささやいた。
こうやって、いちにちに何度もふまれるから、
わたしはとても汚れてしまう。
おかあさんは、外でぱんぱんっとほこりを払ってから、
洗濯機にいれてくれる。
とてもいい香りにつつまれて、わたしはうまれかわれるの!
玄関からじゃ、お外はなかなか見えないから
たいようの下で干されているときは最高にきもちがいい。
そして、わたしはまた定位置におかれる。
あれ? いつもよりちょっとずれてるよ、おかあさん
それに気づいたのか、ななめになっているわたしを直してくれた。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「ただいま」
「おかえり」
玄関でかわすこのことばは、家族のきずなでもあるの。
わたしはなんでそんなに大切なのかをよく知っている。
あいさつするときには、あいてのかおをみるでしょう?
具合わるいのかな、とか
どうして悲しいかおしているのかな、とか
すぐにわかるから。
わたしの場合は、足のうらでそのひとの気分と調子が、
わかるけどね!
おかあさんはきょう、ひさしぶりに洗おうとしてくれた。
やった! あのお花のかおりがかげるんだ!
どうじに、ちょっと怖かった。
洗うたびに、わたしのからだにいるうさぎさんの元気が
なくなっていくから。
色やもようも、うすくなってきていた。
おかあさんはわたしのからだを持って、切なそうなかおをしていた。
うさぎさんが見えなくなると、
とうとう玄関にひとりぼっちにされたような気がした。
けれど、これ以上ふまないで なんて言わないわ。
玄関マットは、そのためにあるんだもの。
大家族が、みんなで海にいくらしい。
それぞれ道具をもって、わたしのうえをあがってくつをはく。
ひとりひとり 見送るの。
わたしは、みんながたくさん足をよごして
帰ってくるのを待っている、お留守番役!
みんな、気をつけていってらっしゃい!
Commentaires