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  • 執筆者の写真卯之 はな

主人公は女の子のフライパン


ぼくは、お料理によくつかわれるフライパン。


おおきなものと、

ちょっと深いものと、

ぼくみたいな小さなフライパン、

いろいろある。


毎朝、おんなの人がぼくを持って目玉やきをつくる。


数はふたつ。

それと、パンとサラダ。


おとこの人が起きてきて、いっしょにごはんをたべるんだ。


にっこり笑って「おいしいね」ときくと、

なんだかぼくもうれしくなった。


でもたまに、おんなの人はぼくをこまらせる。


そんなにたくさんお野菜をいれたら

こぼれちゃうよ!


ほら、やっぱりこぼれた。


もうちょっと大きいフライパンに活やくしてもらえばいいのになぁ。




でもぼくはけっこう、つかいがってがいいんだよ。


目玉やきはもちろん、たまごやきも、

ひとりでいるときにさくっと食べれるようなものも作れる。


ぼくは重宝されたんだ。




男のひとは、たまごやきをうまく作れないし洗いかたもざつだけど、

女のひとは、そのたまごやきをおいしそうにたべる。


だれかがだれかにごはんを作るのって、

おいしさやかたちは関係ないみたい。




ながい年月が過ぎて、三人かぞくになった!


女の子がしゃべられる年になったら、


毎朝つくる目玉やきが三つになった。


おとうさんが調理することもおおくなって、

だんだんと上手く、そして美味しくなっていった。




女の子がにがてなお野菜も知っている。

だからぼくはできるだけ、

熱くなってしなしなになるようにしているんだ。


おかあさんもきらいなのを知っているようで、

わからないようにお野菜をまぜた。


女の子は、おいしそうにたべていた。


なにも知らないのがちょっとかわいそうだけど…

きみをおおきくさせるためなんだ 

ごめんよ


女の子とおかあさんが台所にやってきて、ぼくをコンロにおいた。


なれない手つきで女の子はたまごをわって、かきまぜた。

からがはいったり、とびちったりしたけど

ふたりはたのしそうだった。


それから、おかあさんがぼくのまえに立って調理しはじめた。

女の子は「油がはねるからさがってなさい」といわれても、

きょうみしんしんでのぞきこんでいた。


ふたりはお皿にのせ、できたてのたまごやきをほおばる。


よくがんばったね!


じっさいには食べられないけど、いっしょに食べた気になった。




さいきん、おかあさんはむずかしいかおをして、ぼくをみる。

ぼくも、さいきんからだがおかしいことに気づいていた。


調理をしても、くっついたりこげたりしてしまう…。


そしたら、となりに新品のちいさなフライパンがやってきた。

とてもぴかぴかで、きれいだった。


ぼくは、その子に言う。


「ここのかぞくは半熟のたまごがすきなんだ。 

 あんまりやき過ぎない程度にね。

 あと、おとうさんは手あらくあつかうかもしれないけれど、

 お仕事がいそがしくて、なかなか練習できないんだ」


このかぞくのことを知ってほしくて、いろいろ語った。

聞きおえると、あたらしいフライパンは、


「お料理につかわれるのは はじめてだけど…、

 それを聞いたらがんばろうっておもえたよ」


ぼくはごみ箱のよこにおかれて、

あの子は、たなに片づけられるときだった。


「あなたみたいに、いい仕事ができるよう努力をするよ」


たのもしかったけど、それを聞いて、この先のぼくをかんがえたら

余計にかなしくなってきた。


そんなぼくの横に、女の子がやってきた。

ふしぎなかおをして、おかあさんにたずねる。


「ねえ、おかあさん おかあさん。

 このフライパンさん、どうするの?」


「捨てるのよ」


「でも毎日つかっていたよ?」


「こげちゃうから、おいしいものが作れないの」


それは、ぼくにとってもかなしい言葉だった…


けれど女の子は、


「おかあさん! これちょうだい!」


元気よく、ぼくはもちあげられた。


「いいけど…あぶないことにつかっちゃだめよ。

 なににつかうの?」


「それはねぇ…」





「さきくん、おすそわけのたまごをどうもありがとう。

 りかちゃん! たまごやきができたよ。

 きっとげんきになるとおもう。 


 だって、わたしをおおきくしてくれた、

 

 フライパンだもの!」


テーブルにぬいぐるみたちをかこませて、


女の子はおしばいをしている。


ぼくのうえで、おりがみでできたたまごやきをテーブルにおいた。



「できたての、おいしいたまごやきですよ!」


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