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  • 執筆者の写真卯之 はな

ヒトデにねがいを


釣りばりに引っかかった。


ぼくは、いきおいよく釣りあげられたかとおもえば、

ひとの足元におちる。


釣りばりが、からだに刺さっていたい。


でも、 じたばたじたばた と魚のようには動けないから、

ちょっともぞもぞすることしかできない。

釣りびとが、ぼくのすがたを見てつまらなさそうに言う。


「また ヒトデかぁ」


ぼくとおなじヒトデが、何匹もこの釣りびとにつかまったらしい。

他人ごとのようにぼくは受けとめられた。


釣り人は、

ぽいっ

と、道にヒトデを放りなげると、また釣りに夢中になる。



釣ったひとは、みんなどんなかたちであれ、責任はもってほしいな…



このあつい太陽のしたに、置かれっぱなしになっちゃったけど、


日差しってこんなにじりじりして暑いんだぁ…


とくに騒いだり悲しんだりしないで、

今まで見たことのなかった大空に感動してしまっていた。


どうせここで、からからにひからびちゃうけど

そのときがくるまで、外のせかいを味わおう…


釣り人が魚を釣りあげている横で、

ぼくはのんびりと、太陽をみあげることができた。


するとそんなぼくのとなりに、一羽のかもめさんが降りてきた。


「あらやだ。 お魚だとおもったら、あなたヒトデね」


食べものにありつけるとおもったのか、ぼくのすがたを見て

がっかりしていた。


「ごめんよ。 ヒトデなんだ」

「どうしてお日さまをあびてのんびりしていたの?」

「あのひとに釣りあげられちゃって」


五本あるうちの一本手をあげて、釣り人をさした。

かもめは哀れにおもったのか、


「よかったら、海にもどしてあげましょうか?」


かもめさんは親切にしてくれたけど、ぼくは


「だいじょうぶ」


そうこたえた。

ぜんぜん大丈夫じゃなかったけど、

ぼくはこの太陽のとりこになっていたのかもしれない。


「そう。 このままここにいたい?」

「だいじょうぶじゃないけど、まぁだいじょうぶ」

「じゃあ、べつのところにつれて行ってあげる!」



そういうと、ぼくをくちばしでつまんで持ちあげた。


「なにをする気?」

「ヒトデが空をとぶところ、わたしみたいの!」


返事もまたずに、空へととびあがった。


だんだんと地上がとおざかる瞬間が、はじめはこわかったけれど

すぐにそのきもちは消えた。



海ってこんなにひろくて、

それ以上に世界って、果てしないほどひろいんだ!



四方八方、ちがう景色を魅せてくれるこの世界に胸をうたれた。


「どう? このながめ!」

「本当、最高さ!」

「わたしは鳥だから見られないけれど、

 さぞかし海底もすてきなんでしょうね」


「そうでも…ないさ」


ぼくは、海にいた生活のことを思い出した。



まともに動けず、ゆうがに泳ぎまわるお魚を見送るだけ。

あこがれてもどうしようもなくて…。


その魚たちの話がよく耳にはいってきた。

地上のせかいのことも。


こわい人間はいるし 息はまともにできないし さいあく。


それでも、ぼくは興味があった。


ここにただ居座っているよりは、

他の魚たちが経験したこともないことをしてみたいって。



そして、ぼくは釣り針だと知っていて引っかかってみせた。



「退屈ってことね」

「そう。 …ありがとう、かもめさん」

「じゃあ、このまま海に落とすわね」


くちばしの力がゆるんだ。

ぼくはすかさず言った。


「あ、どこか眺めのいい場所につれてって置いてくれればいいよ」


「あなたはどうしてそう悲観的なの?」


「楽観的なほうだよ。 海底からここまで来れたんだ。

 ほかの海のどうぶつたちができないことをしたい」


ぼくの覚悟が通じたのか。


「わかったわ」


海水におりて、ぼくを水につけた。


「なにしているの?」

「長旅になるから、今のうち体力をたくわえておきなさい」


しばらくして、ゆるめていた口ばしにまたきゅっと力がはいった。


「…もっとみせて。この世界のこと」

「このツアーはさくさく回るわよ!口ばしにしっかりつかまってて」


かもめさんは急上昇して、ぼくをたのしませてくれた。


かもめの口にはさまったヒトデが大空にとぶ…

夢みたいな話をぼくは現実でしてるんだ!


そんなよろこんでいるすがたを、

かもめさんは何もいわずやさしい笑みを向けてくれた。




それから、海からはなれて森にきた。

たくさんのどうぶつと会わせてくれたんだ。

みんなぼくをもの珍しそうにみては、やさしくしてくれた。


人間たちの町も見た。

機械っていうものがたくさんあって、

ものしりのかもめさんはいろんなことを教えてくれた。


ぼくは別世界に目が回りそうになったけど、

もったいなくて 見逃したくなくて 光景を目に焼けつけた。


お日さまがなくなって、あたりは真っくらになっていた。

山にきたから余計にそうおもったのかもしれない…




しばらくながめていたら、かもめさんは聞いてきた。


「どう? 地上のせかいは」

「想像以上だったよ…」

「わるいほう? いいほう?」

「それは今までのぼくをみていたら、聞くまでもないでしょう?」

「そうね」


と、かもめさんはくすくすと笑った。

魚たちからは、鳥はこわい存在だから近よるなって言っていたけど、

そうでもない鳥もいるじゃないか。

海にいるさかなたちは、外のせかいのことをなにも知らないから

そう言えるんだ。


「ヒトデくん! 空をみあげてごらん!」


ぼくは、上をみた。

そこには…


「ぼくが、たくさんいる!」


きらきらした、ぼくのからだとおなじ形をしたものがあった。

空にもヒトデがいるのかな…


「きれいでしょ? あれは星っていって、空よりもっと高い

 宇宙っていうところにいるの。

 ひとはたまに、流れ星にねがいをかけているみたい」


「ながれぼし?」


「あれが、空をよこぎるようにみえるときがあるの。

 その間に願いごとをすればかなうってはなしよ。

 たぶん、迷信だとおもうけど」


「すてきな、おはなしだね」



やっぱり地上はたのしいし、美しい。

ぼくは、そろそろ切り出そうと思った。

ずっとながめていたかったけれど、

からだが乾いて息もしずらい…。

これって、消えちゃうってことだとおもう。




「さいごにしたいところ、行きたいところはある?

 ふしぎな出会いから、ながい付き合いをしたし、

 できることなら言って」


かもめさんは、いつも察しがいい…。


「そうだなぁ」


ぼくは悩むことはなかった。


「ぼくを星にしてくれないかな。

 さっきより、今いるところよりずっと上まで飛んで、放って」


「もう、辛いんだね」


「うん」



かもめさんは、慣れた手つきでぼくを口ばしでつまんだ。

おおきく羽ばたいて、どんどんと上昇していく。


空も町もきらきらしていて…


もう言い尽くしたことばかもしれないけれど、きれいだった。


かもめさんは、そこでとまった。


「ごめんね。 これ以上いけそうにない」

「ありがとう、十分だよ。 あ、かもめさん。

 投げてくれるまえにひとつ言いたかったことがあるんだ」

「もう…。 なによ」


「つぎに、ヒトデを口ではさむときはもうちょっとやさしくかんで」


「…ばかなヒトデね!」


ぼくはもっと上へと投げ飛ばされた。

ひゅーっと風を切って、星をもっと近くにかんじた。


それから、ゆっくりとあがるのをやめて、おちていく…



このぼくを見て、ねがいをかけてくれるひとがいれば…

そのひとの願いをかなえてください



さいごに、ぼくは、ぼく自身に願いごとをした。



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