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  • 執筆者の写真卯之 はな

もぐらのたからもの


「もぐらさん、きょうはどんな石をみつけたの?」


りすがもぐらの前に並べられている石にひととおり目を通します。

かがやくさまざまな石が、太陽のひかりに反射して

まぶしくなるほどでした。


もぐらは自慢げにこたえます。


「最近は赤いものばかりだったけど、透き通る青の石がはいったよ!

 遠いところまで掘ってみつけたから、

 ここら辺ではめずらしいとおもう。

 りすさんはよくぼくのところに通ってくれるから、

 まけてあげるよ」


「ほんとう、もぐらさんは商売上手ね」


りすはよろこんでもぐらと交渉しました。

うまくはなしがまとまったのか、

おたがいにこにこしながら別れます。


ちょうどそのとき、太陽がかげり雨雲が森を覆いました。

それにもぐらが気づくと、いつもなら夜まで店を開いているところ

今日はやめに切り上げることにしました。


「雨にぬれるなんて、ごめんだね」


目の前にある石をふろしきで包み、帰り支度をしました。

背中にしょって、くびもとできゅっと結び目をつくります。


「家にかえるのがたのしみだ」




もぐらが家につくと、たくさんのおくりものが置いてありました。

それぞれに名札がついていて、

さきほどの りす も荷物に埋もれていますが名札はよめます。


もぐらはふろしきをおろし、おくりものを一つずつ広げていきます。

ひとつは木の実の山

ふたつめはどんぐりの詰め合わせ

みっつめは手づくりのかご


それらをながめて、もぐらは満足そうに言いました。


「どれもすてきな、たからものだ」


石と取引で手に入れた、もぐらが食べないものでも

じぶんの家のなかを埋められればしあわせをかんじるのでした。


一回では運びきれないので、

何回かにわけてながい穴をくぐりぬけて、へやにいれました。

さいごに石のはいったふろしきを入れて、ほっと一息つきます。


ひろいあなぐらは、

ものであふれていましたがきれいに整頓してありました。


ひとしごと終えて、

以前、おくりものとしてもらった上品なかたちのいすに座り

より魅力的にみえるように、石を磨きはじめました。

たまにへやの中をながめては、愛おしさにため息がでます。


「ぼくのたからものに、ぼくの努力のけっしょう」


きゅっきゅっと音がなるほど磨き終わったあとでした。

へやの壁をなにかが突きやぶり、

整えてあるものを崩されてしまいました。


あまりのショックにもぐらは声をあげることもできません。


崩れおちる土から、なにかが這いでてきました。


「あー…またやってしまったわ。 ごめんなさい。

 わたし、土を突っ切っちゃうくせがあるの」


からだをゆらしてかぶった土を払うと、

じぶんとおなじどうぶつがそこにいました。


もぐらです。


「あなたのおうち? とってもすてきね!

 あとでお片づけするから、ゆるしてくれない? 

 おなじもぐらみたいだし、掘っていたらどこにでるかわからない

 このきもちわかるでしょ?」


悪びれる様子もなく、もぐらの女の子がいいました。

そんな態度をみて、もぐらは怒りました。


「きれいに並べたぼくのコレクションなんだ!

 そんなかるく言わないでくれ。

 もう、いいから…そこの穴をふさいで出て行ってくれ」


もぐらは木の実を種類別にわけはじめました。

不機嫌そうでもあり、かなしそうにみえるもぐらに、

おそるおそるはなしかけます。


「ほんとう、ごめんなさい。

 よかったら…いいえ、おわびにお手伝いさせて」


もぐらの女の子は、礼儀ただしくあたまを下げました。

もぐらはなにも答えずに作業します。


あきらめてかえっていくだろう


そう思っていましたが、なかなかあたまをあげません。

そんな女の子のすがたに心が折れて、


「わかったよ。 とりあえず、あたまをあげて。

 じゃあ…これとこれをわけて置いておいてくれないか」


「…わかった!」





もぐらがおどろくほど、

手際よくわけてあっという間に終わりました。


「あと、この壁もなおすね」


くずれた土で穴をふさぎ、

ちいさい手でぺたぺたと叩いて固めていきます。

まるで穴なんてなかったかのような出来でした。


「きみ、器用だね」


「むかし、いろいろ鍛えられて」


強がってはいますが、

力仕事でさすがに女の子はちょっと疲れているようすでした。


もぐらはじぶんの座っていたいすと同じものを

女の子のまえにおきました。


「ちょっと、休憩すればいいよ」


「いいの?」


「壁をまえよりよく作ってもらったから」


「ありがとう」


思いがけない申し出に

もぐらの女の子はうれしそうに、腰かけました。




「ねぇ、どうしてこのおうちはこんなにも物であふれているの?」


「ぼくを必要としてくれたり、すきでいてくれているのが

 目に見えてわかるだろ?

 みんなからのおくりものに囲まれているだけで、しあわせなのさ」


もぐらは笑いました。

でもどこか、こころは空っぽのように見えました。


過去になにかあったのとか、

どうしてそう思うようになったのとなどのお話は、

もぐらの女の子はたずねませんでした。


じぶんのことも聞かれたくなかったからです。


「きみは、どこに行く途中だったの?」


「気が向くままに掘って、行きたい方向にいくだけよ。

 かわいい女の子には旅をさせよっていうじゃない」


むじゃきな笑顔でいいました。

みたところ身ひとつで移動しているようにみえます。

もぐらは、そんな生活ができる女の子は

とても強いこころの持ち主だとおもいました。




おはなしをしているうちに疲れがやわらいだところで、


「だいぶ落ちついたわ。 ありがとう、もぐらくん」


もぐらの女の子がいすから立ち上がりました。


「本当、ごめんね。 だいじなおうちを壊して」


「もう気にしないでいいよ。 

 もし、今夜とまるところがないのなら、

 一日ここにいてもいいんだよ」


もぐらの女の子がこたえました。


「ううん。 用事があるから、そろそろいくね。

 安心して。 穴をあけて出て行ったりいないから」


へやにあるひとつの穴をのぞいて、

外につながっているか確認します。


「さようなら、もぐらくん」


「さようなら。 道中、気をつけてね」


すべりこむように、穴にはいりました。

その姿を見送ったもぐらは、とても複雑なきもちになりました。

積みあげられたものをみても、どこか空しくかんじるのでした。




もぐらの女の子が穴から這いでます。

同時に、草からしゅるしゅるっとでてきたどうぶつが

女の子に話しかけます。


「おい、おそいじゃないか」


へびがもぐらの女の子に巻きついて、しゃーと長い舌をだしました。

それにおびえることなく女の子は返事をしました。


「きょうは早めにしごとを終えたみたいで、

 もぐらが家にいたからびっくりしたわ。

 まぁ、なんとかやり過ごすことができたけど盗むひまがなかった」


「いつもは手際よく持ってくるおまえが言うんだったら、

 そうなんだろうな」


「家にあるのも、とくに目ぼしいものはなかったよ。

 ガラクタだらけだったし、他のいえに忍びこんだほうがいいかな」


「おまえ、おなじもぐらだからって、

 かばっているんじゃないだろうな?」


へびがうたがいの目でもぐらの女の子をみます。

そのするどい目つきに一瞬身をこわばらせたものの、

れいせいに答えます。


「ちがうよ。 それにどっちかっていったら、もぐらより

 へびのほうがかぞくに近いじゃない。 育ての親なんだから」


「それなら、おれがいまから家をおそっても文句はないよな」


もぐらの女の子はとてもいやな予感がしました。

へびが巻きつくのをやめると、

もぐらの穴ににょろにょろと近づきます。

それを見て、女の子は駆けよりました。


どうしよう どうしよう


なにをいえば言いか思い浮かず、うつむくままでした。


へびはにやりと笑い、穴の中へしゅるっと忍び込みました。




そのあいだ、女の子はこころのなかでごめんなさいを繰りかえし、

へびのかえりをひざを抱えて待っていました。

しばらくして、へびがかえってきます。


「ほんとう、ごみしかなかったぜ。 

 肝心な石もどこかに隠してあるのか、見つからなかった」


つまらなさそうなかおは、血だらけでした。

へびの傷ではなくおそったもののどうぶつの血のようです。

それをみて、もぐらの女の子は青ざめました。

そんな女の子の横をとおりすがると、


「おなかすいてたからちょっと味見してみたけど、

 もぐらって美味しくないのな。 

 おまえをあの時食べなくてよかったよ。


 おれは先にもどってるから、あしたの朝ここをでるぞ」


不機嫌に言い放ち、へびは草むらの中へ音もなく消えました。


それを確認してから、もぐらの女の子は穴のなかへはいります。

走ってる途中から、

地面に血がてんてんと跡になって落ちていました。


もぐらの無事を祈りながらながいながい穴のなかを走ります。

ちいさなひかりが、だんだんとおおきくなって

ようやくへやにたどりつきました。


「もぐらくん!」


へやの真ん中に、もぐらはたおれていました。

あたりにものが散乱して、あのきれいなへやは見る影もありません。

へびが荒らしたあとは、それは悲惨なものでした。


毛が血でよごれたもぐらを抱きかかえます。

浅い呼吸をはだでかんじられました。


「もぐらくん、今すぐ手当てしてあげるからね!」


手当てをしてくれる場所につれていこうと

からだを持ちあげようとしたとき、

もぐらは手のひらに握られた透きとおる青い石を女の子にみせます。


ちいさな声でゆっくりとしぼりだすように、もぐらが言います


「旅の、おまもりに…渡したかったんだ。

 きみのあとを追って外にでたら、はなしが聞こえてきた。

 きみのだいじな、パートナーなんだね…」


もぐらの女の子はなにも答えることはできませんでした。


「家にはいってこようとしたらから、とにかく逃げたんだけど…」


もぐらの息づかいが荒くなるのをみて、

女の子はとにかくあやまり続けました。


「ごめんなさい。 あれでも、だいじなかぞくなの」


「うん…。 ぼくにはもう、いないけど そのきもちよくわかるよ。

 だからこそ、さみしくないように物でうめていたんだ…。


 ねぇ、もぐらちゃん。 

 たからものと一緒にぼくをうめてくれないかな」


「そんなことできないよ!」


もぐらの目が、ゆっくりと閉じてそれっきりでした。


「…おねがい」


もうからだにちからがはいることはありませんでした。

女の子は、ゆっくりと床にもぐらを横たわらせます。

ぽろっと、手につつまれていた青い石がこぼれ落ちました。


「旅の幸運をねがっているよ」


もぐらの女の子は、肩をおとし石をつよく、

痛いほど握りしめました。

その表情は…




穴の入り口をかたく、さきほど丁寧にふさぎます。

なにもなかったかのようにただの地面になりました。


もぐらの家だった場所をみつめています。


もぐらの女の子は近くにある花々を植えて、

穴だったところを飾りました。


土で汚れたその手には、

透きとおる青い石がしっかりとかがやいていました。


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