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執筆者の写真卯之 はな

ひとりぐらしのきつねさん



きつねは、どんなきつねであっても うそつき 呼ばわりされていました。


いいことをしても 助けてあげても

まちのどうぶつたちは うそつき とののしるのです。


「ぼく、うまれてから一度も うそなんてついたことないのに」


むらのはずれのちいさな小屋で、

きつねはさみしくひとりですごしていました。




きょうもじぶんの育てたやさいをとりにいくために、

はたけへとむかいました。


すると、はたけにいっぴきの子うさぎがいるのがみえました。


子うさぎは、真っ赤なとまとにかぶりついています。


とてもおなかがすいているのか、きつねがちかづいても気づかず 

とまとにむちゅうになっていました。


「子うさぎさん」


きつねが声をかけると、子うさぎはびくっとからだをふるわせ

おびえたかおでふりむきました。


「きつねさん。 ごめんなさい。 ごめんなさい」


ごめんなさいとひたすらあやまるだけで、きつねはこまってしまいました。


たべかけのとまとをにぎりしめながら今度はなみだを流すのです。


「泣かないでおくれ。 かみついたりはしないさ」


「ほんとう?」


子うさぎはかおをあげ、きつねを見あげました。


おこられるのではないかと、おびえていましたが

ふるえるこえではなしはじめました。


「きのうのあさから、なにもたべていなくて…

 だれかのはたけとはわかっていたけど、

 おいしそうなとまとが目の前にあったから つい…」


「ここらへんの土地は、じぶんで育てないとやさいができないからね。

 でも、どうしてそんなにおなかがぺこぺこだったんだい?」


「きつねさんは、むらのようすをしらないの?」


子うさぎはきつねにおしえました。


さいきんは雨がふらず、水不足でやさいやくだものが

育ちにくくなっていると。

そのおかげで、むらのどうぶつたちはおなかをすかせているというのです。


「どうしてきつねさんのはたけは、げんきなの?」

「この近くにはみずうみがあるんだ。 一日になんども

 くみにいっては水をまいているのさ」


それはきつねにとって、たいへんな作業でした。


あつい日も、さむい日も、みずうみになんどもあしをはこび

おおきく育つようにとねがいながら 水をまくのでした。


「だからこんなにおいしいとまとが育つんだね」

「よかったら おうちでもっとたべていかないかい?」

「いいの?」

「おなかをすかせたまんま、あんな遠いむらを目指すのはたいへんだよ」


きつねはとまととにんじんをとって、

子うさぎをじぶんのこやへまねきいれました。


みずうみからくみとった美味しい水と、やさいをごちそうさせました。




すっかりげんきになった子うさぎは、ぴょんぴょんと飛びはねました。


「ありがとう、きつねさん。 おいしいごはんをもらって

 こんなにも力がついたよ! 無事にむらまでたどりつけそうだ!」


出発まえに きつねにお礼をいいました。


「ぼくも、ひさしぶりにどうぶつとおしゃべりできてたのしかったから。

 またよかったら、あそびにきておくれ」

「もちろん!」


ふたりはえがおでお別れをしました。


その日のよるは、たのしくすごした時間がわすれられず

なかなか寝つけずにいられました。


ようやくねむりについて、きつねがゆめをみると

それは にぎやかですてきなゆめだったそうです。




数日後、きつねはいつもどおりはたけへとむかいました。


「きょうは、きゅうりがたべごろかな」


大きなかごをしょってあるきます。

体力をつかうお仕事でしたが、大事に育てたやさいが 大きく

そして おいしくなることはきつねにとって、

なによりのしあわせでした。


もうすぐはたけに着くというころ、

なにやら さわがしい声がきこえます。


急いでむかうと、

そこにはたくさんのどうぶつたちの姿がありました。


きつねが心をこめて作ったやさいやくだものをもくもくとたべています。


「あぁ! だいこん…ぶどう…きゃべつ!」


だれも小屋に近づかなかったのに、どうして ときつねはつぶやきます。

そこへ、とまとをかじりながら このあいだの子うさぎがやってきました。


「子うさぎさん!」


「きつねさん、ごめんなさい。 むらのどうぶつたちを

 助けるために、この場所をみんなにおしえたんだ。

 いま きつねさんのたべものがないと、

 つぎの収穫まで ぼくたちは生きていけないから」


はたけを荒らすようにたべものに夢中になるどうぶつたちを

きつねはぼうぜんと眺めることしかできません。


ささやかな生活で、せいいっぱいひとりで生きてきた

きつねにとって かなしい光景でした。


「ぼくは…きみたちのやさいでしかないんだね」


ゆらゆらと力なく歩きはじめたきつねは、はたけをあとにしました。




そのあとも、むらのどうぶつたち全員で

きつねのはたけをたべ散らかしました。


「どれもこれもおいしいね!」

「こんなみずみずしいくだもの、ひさしぶりにたべた!」


すでに きつねの土地ということもあたまにありませんでした。


そこへ、さきほどのきつねが息を切らせてもどってきました。


「たいへんだ! たいへんだ!」


きつねが叫びます。


その声に、どうぶつたちはたべるのをやめてきつねのほうを向きました。


「むらが火事になってる! ねぇ、火事だよ!」


はたけにひびきわたる声で うったえました。


「家も、はたけも、燃えちゃってるんだ! はやく消しにいかないと!」


けれども、どうぶつたちはきつねの必死な表情をみて

笑いはじめました。


くすくすと りすが


「いやだ、きつねさん。 そんなうそをついてどうするの」


あははと しかが


「きつねのいうことは、しんじられないよ」


つづけてにやにやした子うさぎが、


「きつねはうそつきだから信じちゃだめって、おかあさんがいってたよ」


だれひとり、きつねのことを信じませんでした。


ふっと、むらのほうをちらりとみた さるが きーきーと騒ぎました。


「みんなみて! むらから煙があがっているよ! 火事だ!」


そのひとことで、どうぶつたちは一斉にむらに注目しました。


もくもくと黒い煙が、空へうかんでいきます。


笑い声が一気に悲鳴にかわり、


「おうちが!」

「はたけが!」

「こどもたちが!」


作物をほおりなげて 一目散にむらへもどっていきます。


きつねはみんなのうしろすがたを 満足げにみおくりました。


「生まれてから一度も、うそなんてついたことないのにね」




おおきなやま火事は数日後に、やっと火がきえました。


それは むらのだれもが作物のために降るよう願っていた雨によって


火は しずかに ゆっくりと 消されていったのでした。


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