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  • 執筆者の写真卯之 はな

はなびのひかり


あんなにきらきらしていたのに、今はその光はない。

ぼくはもう何年も、ひとを乗せていなかった。


でも、ぼくは、あの日を忘れない。


このつぶれた遊園地でのできごとを。




みんなが大好き 子ども用のメリーゴーランドで活躍したのは

ぼくたち馬だった。


さまざまな色のライトを当てられて、

のせる人よりぼくたちが主役だと思ったものだ。


子どもを背中にのせると、お母さんやお父さんたちは

カメラのフラッシュをぼくたちに向ける。


あれはちょっとまぶしいけれど、イヤな気はしなかった。




それが今やぼくたちは、誰にも活躍されなくなった。


「わたしたちのからだ、

 おそうじしてくれるひとがいないと、とても もろいのね」

「どの遊具もいっしょだよ。 みんないっしょ」


そんな話を毎日しているものだから、

みるみるうちに全員の元気がなくなっていった。

おばけやしきの仕かけもこころなしか、

日を追うごとにますます怖くなっていったような気がした。


そんなある日のこと。


泣き声が聞こえたかとおもうと、

入場ゲートにひとりの小さな女の子が立っていた。


気づいたぼくは、みんなに言った。


「ねぇ! ゲートを見て!」


「女の子?」

「なんだ。 泣いているじゃないか」


みんなもふしぎに思った。


すると、女の子は一歩 また一歩と歩きはじめた。

その先の入り口は、


「だめ! そっちはおばけ屋しきだよ!」


女の子に伝わるはずもなく、

ぼくたちは見送ることしかできなかった。


すぐに女の子はおばけ屋しきから走って出てきた。


うしろで、久しぶりに人間をこわがらせられたことが

おもしろかった仕かけたちが笑っている。


女の子の泣いて赤くなった目と馬のぼくの目が合った。

そのしゅんかん、女の子は声をあげる。


「お馬さん!」


柵をのりこえて、ぼくの首まわりに抱きついた。



「お馬さん。 お馬さん。 聞いて?

 パパとママと、はぐれちゃったの。

 わたし、このままおうちに帰れなくなったらどうしよう…」



わんわん声をあげて、また泣いてしまった。


「どうやらこの子は迷子のようね」

「心細そう」

「きっとパパとママも心配しているにちがいない」


ぼくたちに出来ることは、なにもなかった。




しだいにあたりが暗くなって、夜がやってきた。

まだ女の子のお迎えが来なかった。


でも、ぼくは安心したんだ。

かえって歩きまわって、けがでもしたら大変だから。


ぼくに泣きつきながら

ぼくにしか聞こえない声で女の子はささやいた。


「さっきみたいな、おばけが来たらどうしよう。

 お馬さん、守ってくれる?」


そう言われて、ぼくははっと気がついた。



ぼくたちは守れることが出来るじゃないか!



みんなで力を合わせて、そして力をこめて、

ゆうぐを動かそうとした。


「きっと動くわ!」

「もう一度だけでも、かがやくんだ!」

「ぼくたちなら楽しませることもできるし、

 はげますこともできる!」


メリーゴーランドはゆっくりと回りはじめた。


それに気づいた女の子はようやく顔をあげた。


そして、ぼろぼろになったメリーゴーランドも

泣きはらした顔も一気にぱぁっと明るくなる。


陽気なおんがくと、色とりどりの光につつまれて、

女の子はぼくの背中にのると笑顔になった。



はしゃぐ子どもの姿をみて、

ぼくたちはしあわせになった。




それからしばらくして、

メリーゴーランドにのっている女の子をパパとママは見つけた。


「遠くにいても、この光ですぐにわかったわ。

 でもふしぎね。 だれもいないのに」


「それより、無事でなによりだ」


「お馬さんが、助けてくれたのよ!」


女の子はふりかえって、ぼくたちに手をふりながら言う。


「お馬さん! ありがとう!」


ぼろぼろになったぼくたちで楽しんでくれて、

ぼくも「ありがとう」と言った。




いっしゅんでも、またかがやけたことがうれしかった。

たとえ、子どもひとりだとしても。


ぼくたちは、女の子を守ったんだ。


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