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執筆者の写真卯之 はな

そらとぶ ねずみ


ねずみは、遠出をするじゅんびをしていました。


木の実をたっぷりつめこんだサンドイッチ。

デザートのいちごを食べやすいように切り、きれいに箱につめました。


箱をきゅっと布でむすび、ちいさな背中にしょいました。


「これで、よし と」


身支度ができたところで、ちょうどおともだちのがキツツキが

穴からかおを出しました。


「ねずみくん! おはよう」


「キツツキくん、おはよう。 もう出かけられるかい?」


「うん!」


へんじをすると、穴から這いでました。


「きのう約束した、お花がたくさん咲いている山へいこう」


「たのしみにしていたんだ!」


キツツキのせなかに、ちょこんとねずみが座りました。

やさしくキツツキのからだにしがみつきます。

つばさを広げて、


「出発だ!」


地面をけって 大空へとび立ちました。




きもちいいかぜに吹かれ、ねずみは思いっきり空のくうきを吸いこみました。

キツツキとともだちになってからというもの、毎日こうやって

ふたりでおでかけをします。


ねずみだけでは遊びにいけないような遠い場所でも、

キツツキのつばさがあれば見たことのない

すてきなところへ連れて行ってもらえるのでした。


「ずいぶん上までのぼってきたね!」


「山だから、景色もいいよ」


ねずみはまわりを見渡しました。

山とおなじ目線だとこんなにも森がおおきく見えるんだ

と、呆気にとられました。


「ここらへんで降りよう。 下におりるから、しっかりつかまってて!」


ねずみが、うん! とうなずくと、それをかくにんしてから

キツツキは急降下しました。


より一層、ねずみにかぜが当たります。

まいかいこの瞬間が、ねずみにはすこし怖くもありました。

おもわず、背中の羽をつよくにぎりしめるのでした。




「わぁ! きれい!」


上にいたときはまわりの景色にむちゅうで気づきませんでしたが、

いまはあたり一面さまざまな色の花が咲く 高原のまんなかにいます。


無邪気にはしゃぐねずみをみて、キツツキはほほえましくおもいました。


それから、ものしりなキツツキはひとつひとつお花のなまえを

ねずみにおしえました。

おべんきょうのこの時間が、とてもだいすきです。



キツツキくんは、いつもすごいなぁ。

いろんな場所に行き、いろいろなものを見て。

ぼくもいつか、じぶんの足で旅をするんだ。

だから、キツツキくんにたくさんのことをおそわりたい!


ちいさな世界でいたねずみにとってどれも興味深いおはなしでした。


お昼をたべそこねるほど、会話に夢中になってしまいました。

一通りおしゃべりをしたあと、ようやくごはんにしました。

ねずみの持ってきたサンドイッチを

キツツキはおいしそうにほおばっています。


「やっぱり、ねずみくんの作ってくれるお料理はおいしいな」


「パンにはさんだだけだよ。 

 でも、ま! よさげな木の実をえらんできたのはぼくだけど!」


「目利きのある ねずみくんって、すごいよ」


得意げに言ったねずみでしたが、キツツキにほめられて照れました。

ぼくにはこれしかできないから と、さきほどとはちがう調子で

遠慮がちにことばをつけたしました。


「とりさんみたいに冒険心もないし、飛ぶこともできない。

 これぐらいしかできないよ」


「それで十分じゃないか」


そんなやりとりをしながら、午後の時間をすごしました。




日が暮れて、そろそろ帰ろうかというころ。


「ちょっとまってて」


とりが高くとびあがり、しげみの奥の木へとまりました。

くちばしでなにかをついばみ、ねずみの元へ戻ってきました。

それをねずみのちいさな手に渡します。


「木の実?」


「これは今日のおみやげに。 怪我やかぜに効く万能薬なんだ。

 山のほうじゃないとなかなか見かけないから、とっておくといいよ」


「ありがとう。 本当、キツツキくんは物知りだなぁ」


おべんとう箱のつつみにその木の実を大切にしまいました。

きょうも一日たくさんあそんだね あしたもたのしい一日になればいいな

と、キツツキはねずみとあしたの予定を相談しながら森へかえりました。



つぎの日は、山をこえたさきのおおきなみずうみへいきました。

そのつぎの日は、あめだったのでねずみのおうちで過ごしました。

そのつぎのつぎの日もあめでしたので、どうくつ探検をたのしみました。


そんな日がずっとつづくとおもっていたふたり。




きょうもおべんとうを用意して、

キツツキがくるのを待ち遠しくしていたねずみでしたが

いっこうにお迎えがきません。


「どうしたんだろう」


いてもたってもいられなくて、キツツキのおうちに行くことにしました。


巣は、ねずみにとってのぼるのにたいへんでしたが

心配でおうち目がけてかけあがりました。


「キツツキくん!」


いきおいよく、穴にとびこみました。

暗くてよくみえませんでしたが、目をこらすと横たわるキツツキがいました。


「…ねずみくん」


よわよわしい声がかえってきました。


「どうしたんだい!?」


「きのうの夜から、とても具合がわるくて…まったく動けないんだ。

 心ぼそかったけど、ねずみくんのかおを見たらげんきが出てきたよ」


力なくつばさをぱたぱたとさせてみせました。

それはみていて苦しいほどの、精一杯のつよがりでした。



ねずみはいてもたってもいられなくなり、

食べられそうなものをいろいろはこびこみましたが

キツツキはかすかに首をよこにふるばかりでした。


「このままじゃ…。 そうだ!」


ねずみはひらめいて、

木からとびおり、一目散にじぶんのおうちへと向かったのです。



「だいぶ、よくなったよ」


キツツキの荒かった呼吸がおさまってきます。

きんちょうがほぐれたのか、そのまますーすーとねむってしまいました。

ねずみはひといきついて、あかい木の実の殻を片づけはじめます。

それは、まえにやまであそんだときのおみやげとして

持ちかえった木の実でした。


その夜。


「ねずみくん」


キツツキは目をさまし、となりで横になっているねずみに声をかけました。

ずっとそばについていてくれたのです。


「たいちょうは、だいじょうぶなの?」


「まだだるいけどあしたの朝には本調子になれそうだよ。

 あのとき食べさせてくれたのはなんだい?」


「このあいだ山でキツツキくんがとってくれた、おくすりの木の実だよ。

 万能薬だけはあるね。 すぐに効いてよかったよ」


「ありがとう。 ねずみくんがいなかったら…」


キツツキはおおきなあくびをすると、またねむりについてしまいました。

ずっと苦しんでつかれているのがわかっていたので、

ねずみもしずかに横になりました。



朝になり、ねずみはキツツキのうなり声で飛びおきました。


「キツツキくん!?」


声をかけたにもかかわらず、ずっと うんうんうなるだけです。

ねずみはキツツキのすがたをぼうぜんと見るしかできません。


無力のぼくにはなにができるんだ

こんなちっぽけで、空もとべなくて、あたまも良くなくて…


ぼくにできることは…


「キツツキくん、ぼくがかえってくるまでここでまってて」


返事もせずぐったりとするキツツキのあたまをそっとなでると、

ふたたび外へでました。



ねずみはおうちできびきびと身支度をととのえ、からだにはおおきすぎる

リュックを背おいました。

木の実の殻をぎゅっとにぎりしめます。


もっとおくすりがあれば


ねずみはあのやまをめざして、はしりました。


ねずみ本来の感覚をたよりにやまのほうへ向かいます。

キツツキの苦しげなかおがちらちらあたまに浮かんでは、

ねずみの足を速まらせるのでした。


川をさけてとおる時間もおしいので、てきとうな太くてみじかい枝にのり、

こいで渡りました。


途中でこわいどうぶつにも出会いましたが、ちいさなからだを活かして

あなぐらにもぐりこみやりすごしました。


けわしいがけも、木のつたをうまくつかってうえへのぼりました。

さいごのひとふんばりでのぼりおえると、


「このかおりは…!」


みおぼえのある かおりが風にのってはこばれてきます。

それは思い出のなかにある、やまのおはなばたけのにおいでした。


木の実はちかくだとわかったねずみは、つかれをわすれて

しげみの奥の実のある木をさがしました。

見あげてあるいていると、あかい木の実がなっている木をみつけました。


リュックにはいっていたものすべてを取りだし、

木によじのぼって詰めれるだけ木の実をいれました。


「たくさん、もってかえらなきゃ。 

 キツツキくんにげんきになってもらいたい」


リュックのくちがぎりぎりしまるぐらいに、たくさんいれました。

こぼれないようにひもでしっかり結び、


「あとは、かえるだけ」


休むこともなく、ねずみは巣へもどりたい一心でまた走りました。


あしがすり傷でぼろぼろになっていたとしても、

がけでよろけて落ちちゃったときも、

じぶんのからだのいたみはふしぎと感じませんでした。




「キツツキくん」


もういちど、なまえを呼びました。 キツツキがうっすらと目をあけます。


「ねずみくん」


笑みをうかべてしぼりだした声でへんじをしました。


「これをたべて。 

 まだ、たくさんあるから落ちついたらまたたべればいいよ」


木の実の殻をわり、キツツキに食べさせました。

ゆっくりかみおえると ごくりと飲みこみます。 

それが今のせいいっぱいのちからだったのか、また目をとじてしまいました。

そのねがおは、前とちがってすこしおだやかなかおになりました。


それを見てあんしんしたねずみは、


「よかった」


リュックの中身につめた木の実をそっとキツツキの横に積みました。

ねずみは、ようやくやすめることができます。

キツツキのとなりで、おなじく横になりました。


そのからだは、傷だらけで つつかれたあとがたくさんあります。


かえりみち、森でおおきなとりにたべられそうになったのです。

ねずみは背おっていたリュックをおなかのほうにまわして

これだけは絶対にもちかえるんだ とからだをついばまれても

必死に守りとおしました。


「キツツキくん、ぼく、ひとりで大冒険してきたんだよ」


目をとじて、ここまでたどり着くまでにあったことをひとつひとつ

はなしをはじめました。

そしてさいごに

キツツキくんは最高のおともだちだよ

といって、おだやかな表情でいっしょにねむりにつきました。





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