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  • 執筆者の写真卯之 はな

すずめかぞくの大黒柱


ぼくは、電柱。

柱っていっても、ぼくの役目は町に電気をとおすこと。

これは、ひとにとってとても重要なことなんだ。




天気がいい日は、すずめさんのおしゃべりを聞いている。

世間話を聞いているから、まわりに詳しくなってしまうんだ。


「向こうでは、もう稲刈りがはじまっているわ」

「そうなんだ! こっちはまだだよ。

 電柱さん、隣町はどうなのか知っている?」


「この間のはなしだと、もうおわったみたいだよ」


おとなりの電柱と、手をつないでいるから

電線にのっかっているすずめさんと、

まるでなわとびしているみたい。


ぼくはこんな天気の日が大好きだった。




でも、こんな強くて太い電柱のぼくでも、

ゆいいつ怖いものがある。


かみなりだ!


ごろごろ ぴかー

「うぅ。 かみなりが落ちてきませんように…」


雨や風にも、たおれることはないけれど、

電気がとおせなくなるのを心配する。


きっと不自由するひとがたくさんいるからね。




「電柱さん」


明るい日差しの午後。

ぼくは一羽のすずめに話しかけられた。


「ここに、巣を作ってもいいかしら。 とても居心地がよさそう」

「いいよ! 一本で立っているより、にぎやかになっていいや!」


そのすずめは、のちに二羽になって、一気に大家族になった。

ぼくは親のような気持ちになって、

この子たちを守らなきゃって思ったんだ。


でも、人間たちもこのぼくら電柱を守ってくれるらしい。


ここに巣をつくったすずめさんに言われたんだ。

この町の電柱を、地中にうめる工事をしてるって。


かみなりも、台風にももろともしないからだになるらしい。


それはうれしいけど、

繋いでいた手と手に、すずめさんがやってくることはなくなる。


だから、ぼくは巣にいるすずめさんたちに言ったんだ。


「いずれ、この柱もなくなるだろうから、

 今のうちに過ごしやすいところを見つけて」


って。




ぼくは、この家族を守る義務がある。


すずめさんたちは、お引越しの準備をしてさいごに

「今まで見守ってくれて、ありがとう」

と言ってくれた。


その言葉がなによりうれしかった。


でも、こんなやりとりも、

とりさんとの世間話も、明るい太陽の光も、

星を数えたりすることも、

いずれ、ぼくらはできなくなる。


となりの電柱とぎゅっと手をつないで、

おたがいの存在をたしかめあった。


ぼくたちはまだ、地上にいる。


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