※短編で楽しめる作品となっていますが、ある同一のキャラクターが登場しています。
牧場では、さまざまなどうぶつたちが暮らしています。
そのなかで、やぎとうまは柵を仕切りにとなりどうしでした。
のんびり屋のやぎたちと、
走るのが大好きなうまたちは、
あまりなかよしではありませんでした。
おたがいの性格が合わなかったからです。
うまはたまに人間の子どもを乗せて、
柵のまわりをゆっくりと一周させられます。
それをみて、やぎたちは
「これじゃあ、子どもをあやしているのとおんなじだな!」
「あんなにおとなしくなっちゃって」
「わたしたちのほうが速く走れるんじゃないかしら」
と、くすくすと笑うのです。
そんなやぎたちをうとましく思うのでした。
夏になれば、やぎはふさふさの毛を刈りとられます。
毛の短くなったやぎをみて うまは、
「まるはだかじゃないか! さぞはずかしいだろう」
「毛があったほうが、まだかわいらしかったのに」
「おれたちのしっぽの毛をわけてあげたいくらいだ」
と、あははと笑うのです。
そんなうまたちをうっとおしく思うのでした。
そんなやりとりをしては、
相手をどんどんきらいになっていきました。
ある日のこと。
いつものように言い争っていると、柵に一羽のとりがとまります。
「なんだかおもしろいはなしをしてるな」
とりが気やすくはなしかけてきました。
お調子もののとりに、やぎとうまがいらいらします。
「じゃましないでくれるかな」
ぶるると鳴いて、うまはいかくしました。
「ちょっかいをだすなら、どっか行って」
くるっと巻いてある つのを、とりに向けました。
「そんなおこることでもないだろ。
それよりも、なんできみたちは気づかないかなぁ。
いちばんおかしく思うのは、
どっちも柵に閉じこめられていることさ」
とりは、たのしげにやぎとうまの境界をくるくると飛びまわります。
自由に空を飛びまわるとりをみて、
おたがい何も言えなくなりました。
水色のつばさが、たいようの光できれいにかがやいてみえます。
見せびらかすように羽をおおきく広げて飛んだあと、
また柵に止まりました。
「気をわるくしないでくれ。
こっちからしたら、きゅうくつに生きているどうぶつたちを見ると 哀れにおもうよ」
「でも美味しい草をまいにちくれるご主人がいる!」
「そうさ! この毛なみを丁寧にブラシをかけてくれる!」
愛されていることを やぎ、うま、どちらも主張しました。
とりはうんうん、とそれらを聞いてからはなしだします。
「ぼくはいろんなところを巡って、さまざまなものを見てきた。
うまさん、きみたちが乗せている子どもたちはおとなになって
どうなってると思う?
うまに乗って競争する大会で有名になっていたりするんだよ。
やぎさん、きみたちの刈りとられた毛はどう使われているか
知っているかい?
カシミヤといって、ひとの高級なおようふくになったりするんだ」
お互い、あっけにとられてしまいました。
それぞれに意味があるのも知らなかったのです。
すてきなことを、ばかにし合っていたじぶんたちが
はずかしくなりました。
とりが水色の羽をひろげます。
「ぼくは、いつ人間につかまっちゃうかわからないけど…
それでも面白いものを見させてくれる人間を
きらいにはなれないな。
そろそろいくよ。 けんかもたいがいにして、なかよくしなよ」
きゅいー きゅいー
と、高い鳴き声をあいさつがわりに去っていきます。
じぶんたちはなんてつまらないことをしていたのだろう。
とりが教えてくれたことは、やぎとうま
どちらのこころにも響きました。
それからというもの、牧場で言いあらそう声はきこえてきません。
子どもが来ると、うまはやぎに
「ちょっとあそんであげてくるよ」
「いってらっしゃい!」
と会話をするようになりました。
やぎが毛を刈るときには、
「あれって痛いのかい?」
「ぜんぜん! すずしくなって、快適よ」
とおしゃべりをするようになりました。
柵でへだてられているものの、
どうぶつたちのこころの距離はちかづいていったのでした。
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