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執筆者の写真卯之 はな

さいごにもらった貝がら


ずっと家で過ごしているあらいぐまがいました。

あらいぐまは外がこわくて、なかなか家から出られません。

それでも、おかあさんがとなりにいてくれれば、

勇気をだしてお出かけができるのでした。


ある日、おかあさんが提案してきました。


「ちかくに海があるの。 あなたは見たことないでしょう?

 きっとおどろくと思うの。

 おかあさんとなら、お出かけできるよね?」


「一緒なら…」


そして、あらいぐま親子は海へいきました。




「うわぁ」


あらいぐまの子どもは、思わずため息がでました。


真っ青な海と、青い空がひとつになっていました。

それが余計に海を大きくかんじさせます。


「わたし、この景色を毎日みたい」


あらいぐまは海にひとめぼれをしてしまったのです。




それからというもの、

あらいぐまはひとりでも外に出られるようになりました。

もちろん、お出かけ先は海です。


ながめたり、波とあそんだり、

いつの間にか時間がすぎて夕方になってしまうのでした。


そして、かえるまでに必ずすることがあります。


貝がら集めです。


一日に一枚、家に持ち帰ります。


毎日、毎日、拾ってはかざるものですから、

部屋がたくさんの色で彩られ、

家も あらいぐまも どんどん明るくなっていきました。




今日も、あらいぐまは家をとび出して海へいきました。

下をみながら、今日一番の貝がらを探します。


「なかなか見つからないなぁ…」


拾っても 割れた貝や穴の開いたものばかりで、

海に何個もかえします。


うつむいて砂浜を歩いていると、

くるっと巻いたきれいな巻き貝が落ちているのを見つけました。


「すっごくきれい!」


海水につかっている貝を拾ったしゅんかん、


「いたっ!」


ちくりと手に痛みをかんじて思わずはらってしまいました。


何事かとしゃがんでもう一度貝がらを見ます。

すると、ゆれて中からなにかが出てきました。

それが口を開きます。


「まったく! 落とすのなら、ひろわないでくれ」


不機嫌そうにあらいぐまに言いました。

中に入っていたのはやどかりのようです。


「ごめんなさい、やどかりさん。

 わたしはだれもいなくて

 きれいな貝がらを持ち帰りたいだけだったの」


「へぇ! そういう遊びなら、ぼくのほうが得意だぜ」


砂にもぐったかと思うと、

しばらくしてから砂をかきわけて出てきました。

そのはさみには、ちいさな貝がらをはさんでいます。

あらいぐまはそのあまりのきれいさに、声をあげました。


「すごい! とってもすてきよ」


「あしたも来るなら、いっしょにあそんでやってもいいよ。

 ま! ぼくよりきれいなもの、見つけられるとは思えないけど!」


やどかりは得意げにあらいぐまにいいました。


「わたしも毎日探していたから、負けないわよ」



こうして、あらいぐまは海のお友だちができたのでした。




あらいぐまが来ると、やどかりが顔を出します。

いっしょに砂あそびや、貝がらきょうそうをして遊びました。


やどかりは海の中のことをはなし、

あらいぐまは森の中のことをはなし合いました。


知らないことばかりで、おたがい興味ぶかく聞いたのでした。




あらいぐまは、家の外へ出るのがだんだんとこわくなくなりました。

かえって何を見つけられるのか楽しみで仕方がなくなりました。


森もひとりで探索します。

そうしているうちに、森の中にもお友だちを作ることができました。


「あらいぐまちゃーん!」


「おはよう! しかさん! たぬきさん!」


「きょうはなにしてあそぼうか?」


あらいぐまは、海のお友だちに会う日が少なくなっていったのです。




逆にやどかりは、あらいぐまが会いにきてくれない日が、

しだいにふえていきました。


今まではしゃぎながらあそんでいたので、

最近の海はさっぷうけいに見えます。


「きょうも、ひとりか…」


海にしずんでいく夕日をながめながら、つぶやきます。

その手には、きらきらとかがやく貝がらがにぎられていました。



ひさしぶりに、あらいぐまが遊びにきました。


「あらいぐまちゃん」


「どうしたの? やどかりさん」


「森を自由に歩けるあらいぐまちゃんがうらやましいよ」


「なにをいうの。 わたしだって、

 海で自由に生きられるやどかりさんがうらやましいわ」


あらいぐまがむじゃきに笑っていうものだから、

やどかりも一緒になって笑いあいました。


そう会話するだけで、

その日もあらいぐまは、貝がらを集めることはなかったのでした。




あらいぐまは、元気におかあさんにあいさつをして

家からとび出しました。


きょうはどんなことが待っているかな


待ち合わせをした森のどうぶつたちに

会いにいこうとしたときでした。


落ちているものが太陽のひかりにはんしゃして、

まぶしさをかんじました。

近づいてみてみると、見知った模様の巻き貝でした。


どうしてこんなところにいるの!?


ひざしを浴びてからからにかわいた貝をひろいあげて声をかけます。


「やどかりさん! やどかりさん!」


「あらいぐまちゃん」


いつものお調子者の口調とはちがい、弱々しい声がするだけで、

やどかりは顔を出しません。

あらいぐまは心配して中をのぞきこみます。


「すぐ海につれて行ってあげるからね」


「あらいぐまちゃんがどんどん遠くに行っちゃうたびに、

 ぼくはだんだんちいさくなっちゃった。

 でも、出会えてよかった。

 もう、今のぼくみたいに、ひきこもっちゃだめだよ」


その声をさいごに、

巻き貝のなかは空っぽになってしまいました。


あらいぐまの手には、貝だけがのこされ

それはわずかに潮のかおりをさせていました。


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