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  • 執筆者の写真卯之 はな

おなかのなか ゆめのなか

おなかのなか ゆめのなか


ある港に、一匹のおおきなくじらが住んでいました。

くじらは大きな口で、なんでもすいこみます。


魚も、海水も、海にただよっているものも ぱくり。


ビーチボールをたべたようです。


くじらはもぐもぐと味わいます。


すると、笑顔だったり、真剣な表情だったり、

たくさんのひとがあそんでいる風景がみえました。


「なんだか、たのしそうだ」


ごくりと、ビーチボールをのみこみました。




こんどは、ねこのぬいぐるみが流れてきました。


そのぬいぐるみを ぱくり。


くじらはもぐもぐと味わいます。


すると、ちいさな男の子が大事そうに

ぬいぐるみをなでている風景がみえました。


「しあわせだったんだね」


海に落とした男の子のかなしげなかおを最後にみて、

ごくりとのみこみました。




くじらは、たくさんの思い出をたべすぎて

ひとつの島のように大きくなってしまいました。


くじらは毎日、おなかいっぱいでしあわせでした。




あるとき、何本もの赤いえんぴつがただよってくるのが見えました。


くじらは水といっしょにすいこむと、

もぐもぐと食べはじめます。


すると、くじらは涙をこぼしながら、ごくりとのみこみました。




べつのひ。 

赤いぼうしがぷかぷかとだたよってくるのが見えました。


くじらは水といっしょにすいこむと、

もぐもぐと食べはじめます。


そして、くじらはわんわんと泣きながら、ごくりとのみこみました。


そのときです。


ぼちゃん


赤いランドセルが海になげこまれました。


くじらが上を見ると、どうやら女の子がなげたようです。

その女の子も、くじらといっしょで涙をぽろぽろながしていました。


くじらが声をかけます。


「おじょうさん。 かばんを落としたよ」


「あなたにあげる」


くじらはなみだといっしょに、

ランドセルをのみこみました。


それをみて、女の子はにっこり。 えがおになります。


「くじらさんなら、ぜんぶわかってくれるんだね」


女の子がまよいもなく海にとびこみます。


くじらは女の子を口のなかにやさしく招き入れて、

しずかにごくり。


女の子から伝わってくるあまりの悲しみに涙があふれ、

海のそこへと落ちていきました。


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