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  • 執筆者の写真卯之 はな

おおかみの情け


※本作品は、子ども向けの内容ではありません。 ご注意ください。



おおかみは、森を通る人間をたべます。

臆病なひとも、ちいさな女の子も、年老いたひとも、


ほかに人間がいなくなってしまったんじゃないかってほど、

食しました。


苦しむ姿は見たくなかったので、喉元を噛んで殺しました。

襲って食べたら、 はい おわり

じゃなくて、骨のずいまで味あわせてもらいます。



どうぶつは一切食べない


森のみんなには、友好的なおおかみで好かれる存在でした。




今日もおおかみは、どうぶつたちと世間話をしながら過ごします。


「おおかみさんがいるから、人間に食べられることも減ったわ」

  と、うさぎがいいます。

「ぼくも毛皮をはがされずにすんでるよ」

  と、くまがいいます。


おおかみは別に、

森のみんなのためにしているわけではありませんでしたが

感謝されて悪い気はしないのでした。




おおかみはいつも、ひとが通る場所で待ち構えます。


気付かれないように、草むらから、こっそりと。


そしてついに、人間が現れました。


獲物は、子どもです。

片手に木の枝のかごを持っているので、

おつかいをしてきたように見えます。


さて、そろそろいくか…


と、ゆっくりと立ち上がった瞬間


「きゃー!」


と、高い悲鳴がきこえました。

目を見張ると、別のおおかみが子どもを襲っています。


味見で、肉をかじってみた黒いおおかみは言いました。


「なんだ。 骨ばっかりじゃないか」


足のちょっとした部分だけついばんで、

どこかに行ってしまったようです。


ひそんでいたおおかみが、草むらから出てきました。



「あー…いたい。 いたい」



おおかみを背に這いつくばりながら、

か細い声で泣きながら言います。


「おとうさん…おかあさん…」


その声は、おおかみにしか聞こえませんでした。


苦しげにのたうちまわる子どもが、おおかみの存在に気付きました。

怯えた目をして、自由の利かなくなった足を懸命に動かします。


その太ももは、骨まで見えていました。


「たべないで…やめて…」


おおかみは、容赦なく子どもに噛みつきました。


余すことなく、肉という肉の部分をむさぼります。

ついに、がいこつのように骨だけになっている女の子に、

おおかみはいいました。


「人が、長く痛がって、苦しんでいる姿は…見たくないんだよ」


おおかみの足元には、

わずかな骨と、地面にしみわたる血だけが残りました。



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