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  • 執筆者の写真卯之 はな

いっぽんあし


わたしの家は、やさいやお米をそだてる農家でした。


家から一歩足をふみだせば、草のかおりがします。


そのにおいに包まれながら、

お兄ちゃんといっしょに暮らしていました。


わたしが小さかったころ、雨の日は

ふたりでびしょぬれになりながら

畑であそびました。


わたしが小学校にかようようになったころ。

ぐずりだすわたしを

いつもの笑顔で見送ってくれました。


お母さんとけんかして家をとびだしたときも、

やさしくなぐさめてくれました。

すぐにお母さんに見つかって、

ばつが悪くなったのを思い出します。


お兄ちゃんとは、いろいろな思い出がありました。


楽しかったときも、辛かったときも、見守っていてくれました。




わたしは、車に荷物をつめおわり外の景色をながめました。

この家と、あの香りとは、しばらくお別れです。


畑をみると、家を出るときに見送ってくれた

いつもと変わらない笑顔がありました。


わたしはカカシの斜めにずれた帽子をそっと直していいました。


「ありがとう、わたしのカカシさん。

 このおうちのみんなと畑をこれからも見守ってあげてね」


ワラでできた からだをぎゅっと抱きしめました。

そのからだは、とても心地のいい匂いがして

胸いっぱいにすいこみました。


わたしはこの香りを、ずっと忘れない…


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