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  • 執筆者の写真卯之 はな

いたずらっ子な しか


しかの姉妹は、ちいさいころからずっといっしょでした。


なにをするにも妹はおねえちゃんについてきて、

ことあるごとにいじわるをします。


きょうは、おねえちゃんのクヌギの木の実を

どこかに隠してしまいました。


「わたしのクヌギの実、しらない?」


「どこにあるか、クイズだよ!」


こうやって、いたずらをしてはおねえちゃんを困らせます。

それでもおねえちゃんは怒ることはなく、

土をほって実をさがすのでした。


次の日はおねえちゃんの寝床に、かえるを忍びこませました。

かえるは、にししと笑う妹にいいます。


「こんなことをするから、森のみんなにもきらわれるんだよ」


そのとき、おねえちゃんがかえってきて さて眠ろうと

あくびをしながら寝床にいくと ぴょん と、

はねたかえるにおどろきました。


しかの家からでるときに、かえるは、


「ぼくは悪気はないんだよー」


と、言いのこしてどこかに行ってしまいました。


「おねえちゃんって、すぐにおどろいておもしろい」


すくすとわらう妹をみて、

おねえちゃんが困ったかおをしながら、


「こまった子ね」


と、怒ることはないのでした。




妹はおねえちゃんをさがします。

さいきん、家にいることがすくなくなったのです。


森では妹はいたずらばかりするので、きらわれていました。




「おねえちゃんしらない?」


「しらないねぇ」


おなじ しかに聞いてそう返事がかえってきました。


「おねえちゃんしらない?」


「どこだろうねぇ」


森をよく知る くまにきいてもそういわれました。




妹は夜までまっていると、


きぃ


と、とびらが開かれました。 おねえちゃんです。

すぐにかけよりますが、

うしろにいる大きなオスのしかに足がすくんでしまいました。


「おねえちゃん、だぁれ? そのしかさんは」


「この しか はね…」


と、おはなしをしました。




それから、いっしょに住むようになりました。

オスのしかとばかりかまうので、妹はおもしろくありません。


「ねぇねぇ、おねえちゃん! 川にあそびにいこうよ!

 もういたずらしないから」


「ごめんね」


そういうだけで、あまりあそびに行けなくなっていきました。




おねえちゃんのおなかがおおきくなって、

子じかが生まれました。


オスのしかと、おねえちゃんはとてもよろこびました。

妹も痛くてもがんばって産んだおねえちゃんを、

ほこらしく思うのでした。




オスのしかのあとは、子じかにおねえちゃんは夢中です。


まったくじぶんのことをみてくれなくなり、

さみしい思いをしていました。


こんどはオスのしかにいじわるをしましたが、

おねえちゃんと同じく困ったかおで、


「いたずらっこだなぁ」


そう言うだけでした。

そのかおは、おねえちゃんと変わらない表情をしていました。




子じかがおおきくなって、話せるようになったころでした。

オスのしかとおねえちゃんはたべものを探しにいっています。

そこで、


「ねぇ、きみ」


子じかにはなしかけました。


「おねえさん、なぁに?」


と、子じかがむじゃきなかおで妹にちかよります。


「このちかくに、すごくおいしい木の実があるんだって。

 とってきておとうさんとおかあさんをよろこばせてあげようよ」


子じかは一瞬かんがえましたが、すぐに笑顔になって


「おねえさんといっしょにいくなら!」


「じゃあいこう!」


ふたりは家を出て行きました。




「なかなかみつからないねぇ」


じつは、妹はこの先にある、

からだにくっつく植物で困らせようとしていたのです。


いたずらなかおをした妹が、草をかきわけながらすすみます。

前日にあめがふったせいか、あしばがわるそうです。


子じかはなんとか追いつくと、

足をふみ外し、草むらに落ちてしまいました。


「いたい…」


すべったところは浅かったのですが、なかなか立てないようです。

妹はすぐにおり、子じかにはなしかけようとしたところで、

おねえさんがかけつけてきました。


けがをした子じかを第一にしんぱいします。


そして、妹の目をみていいました。


「どんないたずらにも、どんないじわるされても

 あなたのことがだいすきだった…けど、今回はゆるせないから」


いままでみたこともない、つよい口調とするどい目で言われました。


そんなおねえちゃんにたえきれず、走り出します。

はしって、はしって、日がくれようともはしりつづけました。


さすがにつかれて、さっきの目をおもいだして泣くのでした。


そこへ、一羽のとりが まいおりてきます。

そのとりは、きれいな水色をしていました。


妹をみていいます。


「子どもじゃないのに、どうしてそんなに泣くんだい」

はじめは見ず知らずのとりを不信におもいましたが、

だれかにぜんぶ受けとめてほしくて、

今までのことのはなしをしたのでした。




「なるほどね」


「もう、おうちにかえれない…」


しゅんとして、妹はうつむきました。

またなみだがこぼれそうになったとき、


「きみは、かまってほしくて困らせるようなことをするの?

 じぶんじゃあわかっていないようだけど、

 だれかに尽くして

 すきな相手のえがおをみれるのが、いちばんしあわせなんだよ。

 だからこそ、森のどうぶつはえがおでいっぱいなんだ」


妹は気づきました。

おねえさんのえがお、オスのしかのえがお、子じかのえがお…

それはじぶんにたいして向けられたえがおではなかったのです。


「わたし、あやまらなきゃ」


「それも大事」


とりはにこっと笑って、

水色の羽で羽ばたいていきました。


ありがとう!と、とりに聞こえるようなおおきな声でさけんで、

家にむかって駆けだしました。




とびらを開けると、

妹をしんぱいしてそわそわしている三匹のしかがいました。


「ただいま」



しかのおねえさんは、かえってきた妹を抱きしめるように

えがおでつよくほおづりをするのでした。


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