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  • 執筆者の写真卯之 はな

街を照らす女の子のはなし

更新日:2019年12月17日


海のまんなかに、灯台がありました。


そこに、女の子と一羽のふくろうが住んでいます。


そのむかし、この町のひとびとは平和にくらしていました。


朝にはおおきな太陽の光がふりそそぎ、

夜には満天の星空と月が浮かんでいました。


ある日突然、夜がまっくらになってしまいました。

星と月が消えてしまったのです。


ひとびとが願いをこめる星。

町を照らしてくれる月。


ひとびとは夜が夜でないことを悲しみました。


そんな町のみんなを救いたい、と女の子は考えました。


そして灯台へ行き、あることをはじめました。


灯台から前のような夜空をうつしだしたのです。


本物だと思ったひとびとは、

上を見上げ久しぶりの星と月によろこびました。


女の子もそんな町の姿に、うれしくなりました。


それがしばらくつづき…


当たり前のようにやってくる夜を、夜と思うようになりました。

すてきな夜空を見ることはあっても、

あのときのような感動はなかったのです。


それが、当たり前だから。


それでも、女の子は灯台から夜空を作ります。


だれも灯台にいる女の子の存在を知らぬまま…




女の子の唯一のお友だちのふくろうが話しかけます。


「なぁ、もういいんじゃないか?

 若いきみがここにいることないじゃないか。

 それに、もうみんなあの不幸を忘れてくらしている。

 きみだけ、あんなお仕事を毎日してかわいそうだ」


「いいのよ。 わたしにはどうせ家族もいないし、

 ここにいるのがちょうどいい人間なのよ。

 それにね、この町にひとりでも

 星にねがいをかけるひとがいるのなら、

 それを叶えるお手伝いをしたいの」


そして女の子は、今夜も町を照らしました。




数日に一度、ふくろうと一緒に町へお買い物に行くことがあります。

たべものと、生活にひつようなもの、

忘れちゃいけないふくろうのえさ。

さくさくとお買い物をすませて、戻るところでした。


買ったものを詰めていた袋が、やぶけてしまったのです。

中身が、あたりに散らばります。


ふくろうはそれを見て、


「やっちゃったねぇ」


と、ひとごとのようにつぶやきました。


女の子は袋に空いた穴を器用に結んでふさぎ、

ふたたび中の物を詰めはじめました。


拾っていると、落ちたりんごを

女の子に手渡してくれるひとがいました。


「大丈夫?」


そのひとは、同い年くらいの男の子でした。

女の子はとまどいました。


灯台にいる自分にも、町に出かける自分にも、

だれも気にも留めなかったため話しかけられるのは久方ぶりでした。


お礼もいうこともなく、りんごをもらいます。


「ちょっと待ってね」


次々と袋の中に男の子が入れてくれます。


「はい、できあがり」


すっぽりと元通りにしまわれた袋をぼーっと眺めていると、

ふくろうが


「ありがとうっていいなよ」


「あ、ありがと…」


袋を受けとって、早足でその場から去りました。


ふくろうがその様子をみて、女の子に言いました。


「おれとは普通に話せるのに、ひとだと動揺するんだね」


「動物と人間だとちがうの」


買い物袋を持ち直し、灯台へと帰りました。




それからというもの。

町へお買い物に出かけては、男の子があいさつからはじまり

世間話をするようになりました。


女の子は、町の様子は耳に入ってこなかったので

男の子の話は新鮮でした。


つい、夢中になって夕方まで一緒にいてしまいます。


「ごめんなさい。 そろそろ家に帰らないと」


「もうちょっといいじゃないか」


「お仕事があるの」


「そっか。 帰り道、気をつけてね」


「ありがとう」


女の子は次第に口数も多くなり、

素直にお礼も言えるようになりました。




灯台のてっぺんで作業する女の子に、ふくろうが聞きました。


「もうちょっと、いても良かったんじゃない?」


「遅れたら大変だもの」


「だれからも感謝をされないなんて、おれが見てても悲しすぎるぜ。

 もう、ありがたみなんて感じてないんだから」


「それでも、ここにいるかぎりそれが義務だと思う」


夜空一面に星と、月のあたたかな光をいつものように再現しました。


あの男の子も、見ているといいな…


女の子はそっと願いました。




町に通っているうちに、お買い物に繰り出すのが楽しみになりました。

今日もたっぷりとおしゃべりをしたあと、時間がきます。


「もうこんな時間。 夜になってしまうわ」


「ぼくは夜が大嫌いだ」


「え?」


「みんなは星に願いをかけるけど、ぼくは知っている。

 あれは神様じゃない。 ただの星だ。

 ずっと、家族のことで願いごとをしていたけれど、

 悪い一方だ。

 夜なんてただ暗くなるだけで、辛いことを思い出すだけ…」


男の子は、夕日を見上げました。

その顔は、険しい顔で空を見つめていました。

でもどこか、さみしげな表情を隠せずにいて

女の子の心を痛めました。




今日は、なんだか思ったように作業が捗りません。

手が、止まりました。


あの男の子が、辛い体験を思い出すようなら…


星空なんてないほうがいいのかもしれない。


ふくろうに振り返ったその顔は…




ふくろうが、声をかけます。


「行くのかい?」


「うん。 町へかえる」


「それが一番さ。 この町のひとは非情だ。

 灯台も、星も、月も、だれも見ちゃいない。

 おれは、きみのしあわせを願うよ。 星じゃなくて、

 おれ自身が」


「ふくろうさん。 今までありがとう。

 あなたのおかげで、さみしくなかった。

 よかったら、一緒に来ない?」


「やなこった。 ひとは嫌いだからな」


「そう。 わたしも嫌いよ。

 …元気でね」


女の子は、船をこぎました。

空は真っくろだったので、町の明かりを目指します。


人々がなんて思おうと、女の子は気にしません。


「わたしは、わたしに戻るんだ」


女の子は、町にかえると、普通の女の子へと戻りました。




 

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