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  • 執筆者の写真卯之 はな

くすり売りのたぬき


あるくすり売りのたぬきがいました。


おおきな薬箱をもって、たぬきは村から村へと渡り歩きます。

病気のどうぶつがいたら、手持ちのくすりを渡して助けてあげます。

きょうも子どものうさぎの看病をして、


「ありがとうございます! たぬきさん」


お母さんうさぎにお礼をいわれました。


そして、村をあとにして てとてとと次の村をめざします。


と、そこに


「いててて」


子だぬきが横たわり、おなかをおさえていました。

すぐにたぬきが声をかけます。


「だいじょうぶかい?」

「おなかが痛くて、動けないんだ」


おなじたぬきとなれば、なおさら放っておけません。

しょっていたくすり箱をおろし、

たくさんあるくすりの中からはっぱにくるんだものを取りだしました。


「これをお飲み。 すぐに治るから」


子だぬきはそれを受け取り、口に含みました。

とても苦く、むせてしまいます。


「これ、すごくにがい」

「良薬口に苦し。 ぜんぶ飲まないとだめだよ」

子だぬきは鼻をつまんで、言われたとおりごくりと飲み込みました。

「ありがとう…たぬきさん」

「ちょっと木陰で休んだほうがいい」


たぬきは よっこらしょ とからだを持ち上げると

木の下へ移動させました。


しばらくすると痛みはすこし安らいだようで、

おはなしをする余裕がでてきました。


「お兄さんは、お医者さんなの?」


「そうだよ。 くすりの元となる植物を見つけては、

 こうやって飲みやすく 食べやすくしているのさ」


「すごいや! たすけてあげているんだね」

子だぬきは感動して、目をきらきらとさせました。

その純粋なまなざしに少したぬきは照れました。


「ねぇねぇ、もしたぬきさんが病気になったらだれがたすけてくれるの?」


「それは…」


「そのときは、ぼくがたすけてあげるね!」




その日から、たぬきにこころ強い助手ができました。

子だぬきは言われた薬草をとりに、

たぬきはそれを元にくすりを作ります。

その分、おおくの病気のどうぶつたちに

くすりを配ることができたのでした。




ある村で、またしばらく滞在しました。


「たぬきさん、子だぬきさん、本当にありがとう!」

「こどもたちもようやく楽になったようで、よかったよ!」


たくさんのどうぶつたちにお礼を言われました。

子だぬきは毎回くすぐったい思いをしながらも、うれしく思いました。


泊まるところを、村のえらい人が準備してくれました。

快適なへやで、ふたりはのんびりとくつろいでいます。


「よし」


たぬきはくすり箱から、本をとりだしました。

その本はぼろぼろで、ずいぶん古いものに見えます。

子だぬきは聞きました。


「それはなに?」


「これは、薬草の種類と作り方をぼくがまとめたものだよ」


「こんなに分厚いんだ!」


「きみに、預けておきたい」


たぬきは、子だぬきにそっと差し出しました。

どういう意味かわからず、すぐ受けとることはできません。

察したたぬきは、つづけます。


「こんな厚い本を持っていたら、くすり箱が重くなっちゃうからね。

 きみのかばんにいれておいてほしい。

 ヒマなとき、勉強もできるからね」


「そういうことか! いいよ、ぼくが持つから。

 でも、先生とぼくがいればくすりは作れるし…勉強はいいよ!」


子だぬきは本を受け取ると、かばんの中へしまいこみます。

ちらっとみえた中身は、

丁寧な絵にびっしりと並んだ文字が敷き詰められています。

子だぬきは言いました。


「次はどんな村だろうね。 いろんな村をまわって、たすけて…

 最近思ったんだ。 治ったどうぶつたちの笑顔が最高の贈り物だって!」


「それに気づけた子だぬきくんは、もう立派なお医者さんさ」

そういわれて、素直によろこびました。


村を出る日。

どうぶつたちに手土産をいろいろ渡され、荷物がいっぱいです。 

そしてたくさんの笑顔をもらいました。


歩きながら、子だぬきは言いました。


「つぎの村に着くまでの食料には困らなさそうだね、先生」

もらったりんごをかじりながら進む子だぬきですが、

返事がないのをふしぎに思い、ふとうしろをふりかえりました。

そこには、くすり箱をおとして倒れているたぬきがいます。


「先生! どうしたの!?」


手からりんごがすべりおち、たぬきに駆けよりました。

苦しげな表情で横たわるたぬきを抱きかかえました。

か細い声で、はなします。


「ぼくの病気は、なかなか治らなくてね…。

 くすり売りが病でたおれるなんて、皮肉だよ」


「なんのくすりが効くの!?」


そっとたぬきを下ろし、くすり箱を漁ります。

材料はとってこれても、くすりの種類はわかりません。

おろおろするだけの子だぬきに言い聞かせました。


「いろいろ試したんだけど、だめだったみたいだ。

 どこかの村か森でたおれてしまうだろうと思っていたんだけど、

 きみがお手伝いを名乗り出てくれた」


「これからもお手伝いするよ! なんでもとってきてあげる!」


「まえ渡した本に、ぜんぶ書いてある。

 だれかにあげる機会がくるなんておもってなかったから、うれしかった。

 子だぬきくんは、もう立派なお医者さんだからね」


「勉強なんてしたくない! 先生がいなきゃ…」


子だぬきはぽろぽろと子どもらしく涙をながしました。

たぬきはふるえる手で、箱からなにかを取りだします。


みどり色のはっぱです。


「たくさんのどうぶつを救ってあげてほしい」


はっぱを頭にのせると、


「どろん」


煙にまかれた瞬間、にっこりと笑ったたぬきがみえて消えてしまいました。

ひらひらと一枚のはっぱが落ちてきました。


「こんなの、ずるいよ…ずるいよ」


地におちたはっぱを手にして、

じぶんを置いていったたぬきに泣きながらずっと文句を口にしていました。




あるくすり売りがいました。


そのたぬきは若いながらも博識で、


どんな病気でも治してしまいます。


そして、村のどうぶつたちが元気になって、そのあとの笑顔をみると、


「どろん」


とにっこり笑いかえして、一枚のはっぱを残し消えてしまうそうです。


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