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  • 執筆者の写真卯之 はな

お花とやまねこのおうち

「きょうは大収穫だったなぁ」


くまははちみつがはいったつぼをかかえて、

おうちにかえってきました。


「ちょっとおおめにわけられそうだ」


さまざまなおおきさのビンに、はちみつを分けはじめました。

こぼさずていねいに注ぎます。


「あしたはいそがしくなるぞ」


そんなことをいいつつ、くまはあしたのことをおもうと

たのしみで仕方ないのでした。




つぎの日のあさ、くまはいつもより早起きして支度をしています。

はちみつをつめたビンを荷車につめこみます。

量はおおいものの、

からだのおおきなくまにとってなんともありません。


「よし、これからが大仕事だ」





まずご近所の こぐまのおうちにいきました。

「あ! くまさん! それははちみつですか?」

「今回もとびきりおいしいはちみつがとれたんだ」

「これはたのしみですね。 きょうは、キャベツでどうです?」

「なんでもありがたいよ!」


こぐまのからだに見合ったおおきめのビンをわたし、

くまはおおきく育ったキャベツをうけとりました。


「ありがとうー!」


こぐまはおれいをいいました。




つぎに ほらあなで暮らすねずみのところをおとずれました。

「ねずみさんー、いるかい?」

「いるよいるよー! あ、くまくんがきたっていうことは、

 はちみつがとれたんだね!」

「そうさ! よかったらどうだい?」

「もちろんいただくさ。 

 こんかいは、この木の実のつめあわせはどうかな。

 めったにとれないめずらしい実もまじってるよ」

「それはたのしみだ。 はい、はちみつ」


ちいさなねずみのからだよりすこしおおきめな小ビンをわたし、

くまは木の実のかごをもらいました。


「ありがとなー!」


ねずみはおれいをいいました。




どうぶつたちのおうちを数件まわって、

荷車のビンものこりさいごになりました。

そのビンはほかとはちがい、りぼんをかけてお花がくくってあります。


すこしきんちょうしたかおで、おうちへむかいました。


「やまねこちゃん」


木の根元はしろいお花でかざりたててありました。

しぜんにできたと思われる木のくうどうから、

やまねこがひょこっとかおを出します。


くまはドキっとしました。

いつもと変わらず かわいいやまねこでした。


「くまさん、おはようございます」


「おはよう、やまねこちゃん。 は、はちみついるかい?」


「ぜひ! くまさんの持ってきてくれるはちみつ、だいすきです」


にこっとわらうと、くまは照れかくしで

すぐに荷車からものをあさります。

やまねこ用のビンを手にとりました。

きれいにかざりたててあるビンをみて、

やまねこはきらきらした表情になりました。


「これもたのしみなんです! とてもかわいくて。

 わたし、だけなんですね…こんなことしてくれるの。

 むらのどうぶつたちとおしゃべりをしていたら、

 このことがわかって」


「あの、これは…その…」


「くまさんはやさしいんですね。 

 また、おうちの前にかざらせてください」


ビンにつけてあった数本のあかい花をとって、じめんにおきました。


「じつは、この下にはもういないかぞくのものを埋めているんです」


「やまねこちゃん?」


「かぞくがひとり減っては、

 はじめからいなかったかのようにものを埋めていたんです。

 それでも、かんぜんに忘れちゃいけないような気がして。

 わたしひとりになっても、さみしくはないですよ。

 このおはなしは、仲のいいおともだちにしかはなしていないので

 内緒です」


「そんなだいじなはなし、だれにも言わないからだいじょうぶだよ」


「そうおもって、おはなししました。

 いつもすてきなお花をもらって、きっと喜んでるとおもいます。

 しろいお花だけじゃさみしいっていうのはわかっているのですが、

 おもいでをどんな色でひょうげんしていいかわからないのです」


くまは、やまねこがしあわせになってほしいと

いつも以上におもいました。

ときおりさみしそうなかおをするのも、かぞくがいなくなって

じつは さみしいからこそ。

いつもの会話はすこし壁をつくられている気がしていましたが、

今日はたくさんじぶんのおはなしをしてくれて

くまはうれしくおもいました。


やまねこは、また寄ってくださいね とえがおをむけると

根のあいだのおうちにはいりました。

それを見送って荷車をゆっくりひきながら、

くまもおうちへかえりました。




きのうとおなじく、すみきった青がきれいな空でした。


くまはやまねこのためになにかできないかと


昨夜、一生懸命かんがえました。


くまの手は、ピンクいろのお花の植木鉢が抱えられています。


よけいなお世話っておもわれるかな…


もやもや悩みながら、あるくのでした。




「くまさん、きょうはどうしたの?」


「やまねこちゃん、気に入らなかったらおへやにでもかざってほしい。

 これを、よかったらここに。

 この色は、ぼくのやまねこちゃんにたいするイメージの花なんだ。

 いつもあかるいけど、ほんわかしている。

 ほかの子想いで、やさしい。

 それに、とてもかわいらしい。

 そんな今のやまねこちゃんを、

 かぞくのみんなにも知ってほしいんだ」


「くまさん…」


植木鉢をうけとって、しばらくピンクの花をながめました。


ちいさいながらも花びらはひらひらとしていて存在感があります。


やまねこは、ひざをついて土をほりだしました。


あるていどほったら、こんどは植木鉢から土ごととりだして

その穴にいれました。


となりで咲きほこるしろいお花たちに、映えるいろです。


たったひとつの鉢植えでしたが、

あたらしい空気が流れた気がしました。


「ありがとう、くまさん。

 わたしもどうするべきか悩んでいたことだから…。

 でも、このお花はかわいすぎます」


やまねこはくまにはじめて照れたかおをしました。

ちいさく笑ったあとに、つづけていいます。


「もっとここに、色をそえてくれませんか?」


「やまねこちゃんも、かぞくもさみしくないように

 すてきなおうちにしよう」




この日から、やまねことくまは毎日会うことになります。

くまは、はちのために育てているピンクのお花を

やまねこにとどけます。


じょじょに色をかえつつあるおうちに、やまねこは満足げにほほえみ

そして来てくれたくまのためにお茶をいれるのでした。

おうちに入れるほどのからだではなかったため、

お外でおしゃべりをします。


ふたりはゆるやかに流れるこの時間がだいすきでした。




ピンクとしろがあざやかに混ざりあう

まるで庭のようになってきたころ。


「くまさーん!」


息をきらせたやまねこが

いつもの鉢をもってきたくまにかけよってきました。

そのかおは、わくわくしたたのしげなようすです。

くまは首をかしげましたが、手をひかれるままおうちに向かいました。


「とにかく、おうちにきてほしいんです!」

「これ」


お花に、みつばちがよってたかって蜜をすっているようです。


くまの育てているピンクのお花のかおりに

つられてやってきたみつばちが、

あなぐらの上におおきな巣をつくっていました。


「こんなにおおきな巣になるまで気づかなかったなんて。

 お引越し上手ですね」


「ぼくのほうはちょっとかずが減ったかなってぐらいだったから、

 ふたつのむらを作ったかんじかな」


みつばちをながめます。

ピンクのお花にも、しろいお花にも、

おいしそうにのむミツバチのすがたがかわいらしいとおもいました。


やまねこは、


「わたしのおうち、とられちゃいましたね。

 さすがに はちさんといっしょには暮らせないです…。

 どこか、住みやすいばしょはないかなぁ…」


ちらりとやまねこはくまを上目づかいでみました。

それに気づいたくまは、あざとくいうやまねこに対して


「おしごとの助手をしてくれたら、いえにいてもかまわないよ」





くまはやまねこのかわりにおうちから家具をはこびだし、

じぶんの小屋に案内しました。


「ここと、むこうの巣のはちみつをとってくるから、

 やまねこちゃんは はちみつをビン詰めをしてくれるとたすかるよ。

 それと、花の手入れもおねがいしてだいじょうぶ?」


「ながいあいだ毎日おせわをしていたんです。

 かえってさせてください」




くまとやまねこのそだてるお花のみつは、それはとてもおいしいのか

ミツバチもまたおいしいはちみつをつくってくれるのでした。


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