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  • 執筆者の写真卯之 はな

うさぎの守りたかったもの



※本作品は、子ども向けの内容ではありません。 ご注意ください。



ゆめだったらいいのになって、なんどもおもった。

おとうさんとおかあさんのひめい。

きょうだいたちの、逃げまどうすがた。


わたしはひとりで山のふもとあそんでいて、おうちにかえったら

そんなことになっていた。

こわくて、あしが動かなかった。


しげみからながめることしかできない無力なじぶん。


いたちに傷つけられるかぞくをこれ以上みたくなくて、走りだした。


痛いおもいしたくない

たべられたくない


走って、走って、あいつらがいない場所へ…


「うさぎさん」


わたしをよぶ声がして、たちどまった。


「うさぎさん」


もう一度なまえをよばれた。


「おきて、うさぎさん」




「!」


「またうなされていたよ」


横をみると、たぬきのかおがありました。

しんぱいそうに、お布団でねているうさぎをみています。


「うるさかった?」


「ううん。 悪夢でもみてるのかとおもって心配した」


「あのゆめ…また、見ちゃったようです」


「眠れなさそうだったら、おさんぽにでもいく?」


「うん」


うさぎはおふとんから抜けだし、たぬきに手をひかれて

夜中の森へくりだしました。




みあげれば夜空にはたくさんの星が散らばっています。

つきあかりのおかげで歩きやすくなっていました。


「たぬきさん、本当にありがとう。

 あのゆめを見るたびにおもいます。

 走りつかれて たおれた見ず知らずのわたしをひろって看病してくれた。

 どこにもいくあてがないわたしを、住まわせてくれて…

 感謝しているんです」


「ぼくもひとりだったから、ともだちがふえた気がしてうれしいんだ。

 そういっちゃ、きみに悪いよね」


「ううん。 気にしないで、たぬきさん。

 わたしがここまで立ち直れたのも、あなたのおかげですから」


しばらく二匹は森をおさんぽして、眠くなるまでおはなしをしていました。




うさぎは、毎日の日課の畑しごとをしていました。

にんじん、だいこん、ブロッコリー。

もともとはたぬきひとりでおせわをしていましたが、

なにかちからになれないかと申し出たところ畑しごとを任されました。

そのぶん、たぬきはまきわりや木の実ひろいのじかんを

多くとることができます。


「おおきく育つのよ」


やさいを愛でるように水まきをします。

たとえ植物であったとしても、

兄弟のなかではいちばん上のおねえさんだったためか

おせわをしないとじぶんの存在が無意味なものになってしまう気がして

怖くもありました。

夜になり、畑のやさいと、きのみを晩ごはんに談笑していました。


たとえふたりでもつつましい生活がうさぎのこころを癒していくのでした。




次の日の朝。

うさぎはたたきつける雨の音で目を覚ましました。

暴風が窓やとびらをがたがたと揺らします。


窓をあけると、空はどんよりとした雲が広がり、大雨の影響で

あふれだしたと思われる川の水がおうちの前をながれています。


「はたけ!」


うさぎは一目散におうちを出ようとしました。

その音にたぬきは目をさまします。


「うさぎさん!どうしたんだい!?」


「はたけが、嵐で…! とにかく行かなくちゃ!」


とび起きてたぬきはうさぎのあとを追いました。




川のはんらんで、足元をすくわれそうになりながらも畑に向かいます。

からだに痛いほど雨がふりそそぎ、強風でなかなか前に進めません。

そんな状況でも、あたまのなかは大事な畑のことしかありませんでした。


ようやくたどり着くと、池のように水につかっていました。

伸びていたやさいの茎は折れ曲がり、実はどこかへ流されてしまったようです。


うさぎはぼうぜんとたちすくみました。


あのときとおなじ絶望感が、よみがえってきます。


「きのう、多めに収穫しておいたから食料には困らないよ。

 せっかくうさぎさんが大切に育ててくれた畑だけど、

 いっしょにまた作りなおそう」


うさぎはなにも言えずに、たぬきに支えられながらおうちへもどりました。

それ以来、うさぎはめっきり口数が減りました。

たぬきがうさぎを看病していたときに戻ってしまったようです。


「うさぎさん、きょうは良い天気だよ。

 外にでて はたけの整備でもしない?」


「ごめんなさい。 きょうもたぬきさんにおまかせします」


「…わかったよ。 ちょっと行ってくるね」


ぼーっと窓から空をみつめます。


じぶんが大切におもうほど、消えていってしまう

それでも

たぬきさんだけは

なにがなんでも、守らなきゃいけない


うさぎはふらふらとたちあがって、たぬきといっしょに

畑しごとをしようとおうちをでました。


もうだいぶ経ったので、土は完全に乾いています。

あの嵐がうそのようにすぎ去ったことを意味していました。


「たぬきさんに、あやまらなきゃ。

 そしてこれからも、いっしょに生きていきたい」


うさぎの足どりがだんだんと力づよく、

生きるちからをとりもどしていきます。

うさぎは畑を元どおりにすることと

すこしでもたぬきのおてつだいをしたいと、こころに決めました。



たぬきさん!



畑にいるたぬきに声をかけようとして、息をのみました。

たぬきといっしょにいるのは いたちだったのです。

聞き耳をたてているわけではありませんでしたが、会話がきこえてきました。


「おい、たぬき。 

 またこのちかくにいる食料の居場所をおしえてくれないか?」


「もう知らないんです、いたちさん。 このまえ、おしえたでしょう。

 ここらへんのかぞくは、

 たいがいあなたたちが食べつくしてしまいましたよ」


なんのはなしをしているのだろう。

うさぎは、なんとなくいやな予感がして震えが止まりません。


「まぁ、いいか。 そういえばおまえ、

 あの生き残りのうさぎを飼っているそうじゃないか。

 おれたちのためにまるまる育つまで生かしているのか?」


「あの子には手を出さない約束ですよね!?」

とつぜん声を荒げてたぬきは言いました。


「冗談さ。 それにしても、うさぎかぞくの肉はうまかったなぁ。

 そうそう、ここの土地は約束どおりくれてやるってさ。 

 やさいが育てられるようになってよかったな。 飢え死にしなくてすむぜ」


いたちはいやらしい顔をして、草むらのなかへと消えていきました。


うさぎはたぬきを見つめて、混乱したあたまのなかではなしを整理しました。


いたちに、かぞくの居場所を売っていて

そのひきかえにこの土地をもらったんだ


短い会話の中の細かい点と点がむすばれました。


もしかして、というかんがえより、うさぎは真実を知ってしまったのです。



あぁ、たぬきさんは…



ふたたび農作業をはじめたたぬきに近づきました。

うさぎのかおに、怒りも悲しみもありません。


「たぬきさん」


「うさぎさん!」


たぬきはおどろいてクワを落としうさぎをみました。

それは長い間こもっていたうさぎに驚いたのか、会話を聞かれてあせったのか、

うさぎにはわかりませんでした。


「体調はだいじょうぶなの? まさかここにくるなんて思ってなかったよ」


「たぬきさんのおかげで、げんきになりました」

うさぎは、かたちだけの笑顔をむけました。


「とても感謝しています。 ぜんぶ、なにもかも」

 意味ありげなことばに、たぬきは首をかしげました。


「さて、わたしもおしごと復帰しないといけませんね。

 おまたせしました、たぬきさん」


「無理しないでね。 うさぎさんはがんばりすぎるから」


「ちがいます。 たいせつに想っているかたに、尽くしたいだけです」

ようやく息をふきかえしたように、たぬきが落としたクワを拾います。



かぞくも、この土地も、たぬきさんも

だいすきなわたしは…



うさぎはクワをぎゅっとにぎりしめ、おもいきり振り上げました。


瞬間、たいようの光で刃がきらりとかがやきました。


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