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  • 執筆者の写真卯之 はな

うさぎじぞう

うさぎじぞう


村のはずれには、おじぞうさまがいました。

おじぞうさまはひとり、道のよこのしげみのなかに立っていました。


そのとなりに、うさぎがいます。

あたたか陽気にのんびり、うたたねをしていました。


するとそこへ、村人がこっちにやってくるのが見えました。

うさぎはその遠くの足音を大きな耳でききとって、とびおきます。


おじぞうさまのうしろにいって、見守りました。


村人がおじぞうさまの前にきて、そっと手を合わせてお祈りします。


「おじぞうさま。 おねがいします。

 さいきん、めっきり雨がふらないもので作物がそだちません。

 村に雨をふらせてくだせぇ。 おねがいします」


そういって、おじぞうさまに

くだもののお供えものをしていきました。


うさぎは、ひとがいなくなったのを確認して

おじぞうさまに言いました。


「めずらしいのう。 

 もうみんな、わしたちのこと忘れたと思うたのに。

 おじぞうさま、せっかく会いにきてくれたんじゃ。

 どうかおてんとさんとおはなししてくれないかのう」


うさぎも、おじぞうさまに手を合わせました。




うさぎは、小さいころからおじぞうさまといっしょです。

なのでひとりでもさみしくなかったのでした。




きょうは、おじいちゃんうさぎが

おじぞうさまをおそうじする日です。


はっぱをたばねたほうきで、頭から足 きれいに砂をはらいます。

そして、村人がおいていったお供えものをちゃんと元にもどします。


「これでよしと。 

 あとはおたがい、自由にすごそうとしようじゃないか」


おじぞうさまの横で、どさっとうさぎは横たわりました。




春は、そんなおだやかな日々が続きました。


夏は、石のおじぞうさまがびりびりあつそうにしているところに

水をくんできて水浴びをさせてあげます。


その夏は、だれもおがみにきませんでした。


秋は、石のおじぞうさまが

ひらひら枯れ葉におおわれそうなところを

うさぎがほうきではらっておそうじしてくれますが…


今年の秋も、だれもおがみにきませんでした。




冬がきました。

ちらちらと雪がふってきます。


「おじぞうさま、見えるかい? 雪だよ。

 わしらは何度この雪をいっしょに見ただろうね」


うさぎのはなに ちょんっとのった雪は、すぐに溶けていきました。


そのとき。

うさぎのはながひくひくっとうごきました。


「だれかくる!」


うさぎはとっさにおじぞうさまの後ろにかくれます。


村のほうから、むじゃきに雪みちをふむ女の子がいました。

その子は道を右へ行ったり左へ行ったりはしゃいでいます。


「よごれちゃうからだめよ」


お母さんが注意しても、


「たのしいんだもん!」


女の子がふさっととびおりた先には、おじぞうさまがいました。


「あれ? おじぞうさま?」


女の子がのぞきこむので、うさぎは草むらのなかへにげました。

おかあさんがあとにつづいて、やってきます。


「ずいぶん昔からあるおじぞうさまみたいね」


「おじぞうさまって、ねがいを叶えてくれるんでしょう?」


「そうよ。 昔からわたしたちを見守っていてくれたの。

 とってもやさしい、おじぞうさま」


「そうなんだ! じゃあ…おねがいごとする!

 村のみんなでそだてているりんごが、おいしくなりますように!」


「きっと、かなえてくれるわ」


そしておかあさんは、ふろしきの中からみかんをとりだして

おじぞうさまの前にお供えをしました。


そのみかんは、ちいさくしぼんでひからびていました。




それからというもの。

女の子は毎日のようにおじぞうさまのまえに

やってくるようになりました。

ひとりで、こっそり家からお供えのみかんを持ってやってきます。


「おいしいりんごがそだちますように」


一礼をして、村へとかえっていきました。


うさぎは草むらから顔をだします。


「やさしい子じゃのう。

 おまえさんのことを信じているから、会いにきてくれるんじゃ。

 わしからもおねがいするよ。

 どうか、あの女の子のねがいがかないますように」


うさぎはそっと、おじぞうさまに手をあわせました。




冬がいっそうきびしくなってきた時期でした。

女の子が顔をださない日が多くなってきました。


来たかと思えば、春をつれてきたとおもえるほど

あかるい表情をしていた女の子は、今やずっとうつむいたままです。


そして、願い事もかわりました。


「村のみんなが、げんきになりますように」


ふかく一礼をして、かえっていきます。


うさぎはなにかあったんだ、とかんじて

村へとおりていきました。




村は、うさぎの知っている以前の村ではありませんでした。


畑はあれて、さくもつは育っておらず、

りんごの木も実はなっていませんでした。


うさぎは、家のまどから中をのぞきます。


その家のなかには女の子がいました。

女の子は寝たきりのおかあさんの介抱を

いっしょうけんめいこなします。


「きっとおかあさんも、村のみんなもよくなるよ。

 わたし、おねがいごとしにいってるから。 おじぞうさまに」


だから、よくなるよ


そういって、おかあさんのおでこをそっとなでました。




うさぎは考えました。

神さまの助けを信じて通いつづけていた女の子のために、

なにかしてあげられることはないか。


「そうだ!」


うさぎは、森の中へとかけだしました。




しばらくして、手いっぱいの木の実と果物を持って

女の子の家へいきました。

とびらを、とんとん と叩いてから、うさぎは遠くから見守ります。


女の子がとびらを開けると、


「あら?」


足元にたくさんのたべものがおかれています。

どれも村では とれないものばかりでした。

あたりをきょろきょろと見渡してもだれもいないので、

ふしぎに思った女の子は、


「おじぞうさま。 ありがとうございます、おじぞうさま」


その場でいつもの一礼をしました。

おじぞうさまが神だのみしかできない女の子をあわれに思い、

してくださったことだとかんしゃしました。




うさぎが物をとどけては、おじぞうさまの前にきた女の子が

ふかぶかとお礼をして村へかえるという日がつづきました。


あるとき。

うさぎが食べものをさがしているときでした。


きょうは何をもっていってあげようかと考えていたうさぎは、

その大きな耳をもっていても、

うしろにいた くまに気づきもしませんでした。




とん とん。

とびらを叩く音がきこえた女の子は、家のとびらを開けます。


足元には、きずついたうさぎがたおれていました。


女の子は、そのうさぎを抱きかかえます。

そして


「ありがとうございます! おじぞうさま。

 これで、きっとげんきになります」


ありがとうございます ありがとうございますと

何度も口にしました。


その声をききながら、うさぎの目は光をうしなっていきました。




昔々 ある村に、流行病がきました。

村人のほとんどがその病気にくるしんで、

冬を超すこともできないと村人のほとんどがあきらめていました。


そんななかでも、女の子はおじぞうさまにお祈りします。


「みんながげんきになりますように」


それから、女の子の家にはたべものがおかれるようになりました。

おじぞうさまだと気づいた女の子は、


「ありがとうございます」


村のひとと分かち合いました。


さくもつのつぎは、うさぎの肉がとどきました。

女の子は村人のひとに分け与えました。


すると、みるみるうちにからだは良くなり

病気が治ったのです。


それからというもの、村人はおじぞうさまに

かんしゃの気持ちとお供え物をするようになりました。


そして、あのときおじぞうさまがくださった

うさぎのお墓をとなりに立て、

おなじく両手を合わせるそうです。



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