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  • 執筆者の写真卯之 はな

あかいくるま


男の子は車のおもちゃが大好きでした。

とくに、真っ赤な車のラジコンは

ごはんのときもお出かけするときも

ずっと一緒にいるくらい大好きです。


お留守番が多かった男の子は、

ひとり遊びをしているとさみしくありません。


車をびゅんびゅんと走らせてぎゅいんぎゅいん音を出します。


「いけー!」


と、大きな声をあげて本で作った坂道を走らせました。

そして赤い車はジャンプしてうまく着地します。


赤い車は、思いました。


「ぼくであそんでくれれば、さみしくないよね」




男の子がおいしそうにごはんにぱくつく様子を見ながら

赤い車はあそぶのをいつも楽しみにしていました。


「はやくはやく。 いっしょにドライブしようよ!」


待ち遠しく思いました。




お留守番の日に、かみなりが止まなかったときがあります。

男の子はその音におびえていましたが、

泣きながら車を走らせるととたんに元気になりました。


走らせている音が、男の子は大好きだからです。


「怖い音なんて、きこえないもーん! 怖くなんてないや!」


でも、お母さんがかえってくると、

男の子はぎゅっとお母さんに抱きついて涙をながしました。




おひるねも、夜ねむるときも、

男の子は赤い車をにぎりしめて夢のなかにはいります。

そっと赤い車がささやきます。


「君をのせてあげることはできないけれど、そばにいるからね」




ずっとこんな日々が続くと、赤い車と男の子は思っていました。


お母さんがいつまでたっても

おもちゃを片付けない男の子のかわりに、

しまいにきました。


「もう。 疲れてねちゃうんだから」


ぽんぽん さくさくと、おもちゃたちは箱にいれられていきます。

緑の箱、赤い箱、黄色い箱。


そして、赤い車は青い箱にいれられました。

心のなかで赤い車はさけびます。


「ぼくはこの箱じゃないよ!」




赤い車は箱の底で暗い中ぎゅーぎゅー詰めにされて、

男の子のすすり泣く声を聞きました。


「ぼくの、大事な車…」


ここだよ!と言うこともできずに、

赤い車は赤い車のままでした。




それから、青い箱は開けられることはなく

一年 三年 五年…年月が過ぎていきました。

さいしょはどうか気づいてほしいとねがっていた赤い車でしたが、

もうそんなことを思うことはありませんでした。


男の子が成長する声を聞いて、

どんどんおとなになっていくのをかんじました。




赤い車は、ずっと長いこと光を見てなかったので

いきなり光がさしこんできておどろきます。


なにやらごちゃごちゃと音がしました。


「なんだろう?」


だんだんとその光は大きくなり、目の前には

想像していたとおりりっぱに大きくなった男の子がいます。


赤い車も、男の子も、


「やっと会えたね!」


むねの中で抱きしめられた赤い車は、

どんなにときがたっても忘れられてないことをよろこびました。




それから、男の子は赤い車を外につれだします。


すると、庭には赤い大きな車があったのです。


それは、おもちゃの赤い車とおなじ形をしていました。


「ぼくがいる!」


赤い車はぎゅんぎゅんと音をたてて

うれしい気持ちをひょうげんしたく思いました。


男の子は、赤い車の助手席におもちゃの赤い車をのせて言います。




「こんどはぼくがドライブに連れて行ってあげるね」





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